感情労働とは何か? 従業員のメンタルヘルスを守る方法を伝授
2022-11-08
大後 ひろ子
C-OLING代表 ブランディングコンサルタント
労務健康管理
体を酷使して働く「肉体労働」や頭脳をフル回転させて仕事をする「頭脳労働」。最近になってさらにもう1つ、「感情労働」という新たな分野が登場しましたがご存知でしたか? 感情労働がほかの2つと異なるのは「仕事に感情を使わない」という点です。こちらの記事では感情労働の基本的な知識に加え、感情労働を担う従業員に向けたメンタルヘルスケア対策の重要性などをわかりやすく解説します。あなたの会社がサービス業や販売業ではなくても、ぜひお読みいただきたいと思います。
そもそも、感情労働とは?
感情労働とは、相手(顧客)に満足感を与えるために従業員が自身の感情をコントロールして業務にあたることを指します。「感情労働」はアメリカの社会学者A・R・ホックシードによって提唱され、近年注目を集めている言葉です。
感情労働に従事する人は業務中に自らの感情を抑えて行動する必要があり、一般的な業務に比べて精神的な負担が大きくなるのが特徴です。
「感情労働」の定義
A・R・ホックシードは感情労働について「公的に観察可能な表情と身体的表現を作るために行う感情の管理」と定義しています。つまり感情労働に従事する人は、業務中に
- 感情の抑制
- 緊張感の維持
- 忍耐力の保持
が求められるのです。
感情労働に従事する人は顧客に不満を抱かせないこと、顧客に満足感を得てもらうことを目的として、その分野のプロとして振る舞うことが必要となります。
「感情労働」が必要な業種として、当初は航空機の客室乗務員が想定されていました。しかし、現在はコールセンターをはじめとした顧客対応係、ファストフードやコンビニのスタッフなど、さまざまな分野に広がってきています。
「感情労働」の背景
感情労働が広がりを見せる背景にあるのはコンビニやファストフード店の増加であり、第三次産業に従事する人が増えたことにあります。第三次産業は小売りのみならず金融・情報通信、卸売りなども含まれ、その規模は1920年から2010年までの90年間で約3倍となりました。
規模の拡大とともに競合する企業が多くなり、各社が顧客満足度を重視するようになったことも感情労働が増加した一因となっています。最近はSNSを介して顧客が自由に情報発信できる時代になりました。そのため、各企業がトラブルやクレームを未然に防ごうとして、従業員に対してより質の高い感情労働を求めるようになったと考えられます。
感情労働が求められる職種
感情労働は従業員が自らプロフェッショナルとして振る舞うことにより、相手(顧客)に満足感を与えることを一番の目的としています。顧客を相手にする職種としては、以下のようなものが考えられます。
営業職
顧客に対して自社の商品を魅力的にアピールする営業職は、感情労働の代表的な職種といえます。自身の感情をコントロールしながら顧客の購買意欲をかき立てるなど、感情労働における高いスキルが求められます。
教育職
教壇に立って多くの児童や生徒を指導する教師の仕事も感情労働といえます。教師は日々たくさんの目にさらされ、小さな変化が相手(児童・生徒)に影響を及ぼすことも少なくありません。ときに感情を抑えて指導し、ときに人として感情をあらわするなど、適切な感情コントロールと指導力が求められます。
医療職
患者の治療やサポートにあたる医療従事者も感情労働をしています。医療者はただ単に体を治すだけでなく、患者や家族の精神的なケアも担います。そのため、相手(患者・家族)の不安や悩みを受け止める包容力、正確な情報を伝える発信力などが求められます。
サービス職
サービス業に従事する人にとって顧客対応は避けて通れない業務です。私たちの暮らしに欠かせない販売業・飲食業・宿泊業をはじめとした多くの業種が含まれています。
感情労働のデメリット
感情労働は、業務に誠実に取り組む人ほど負荷が大きくなるといわれます。肉体的・精神的な疲労が積み重なると、仕事に対する意欲が低下するだけでなく、メンタルヘルスに不調をきたす恐れがありますので注意が必要です。
従業員満足度の低下
日々の疲労やストレスが蓄積すると、仕事に対する満足度の低下は避けられません。意欲や活力が失われると仕事に対するモチベーションが下がるほか、睡眠不足が食欲や体力の低下を招くこともあります。仕事に充実感を得ていたときに対して業務効率や達成率が下がり、負のスパイラルに陥るケースもあるでしょう。
従業員が仕事に対する興味や意欲を失わないようにするためには、ストレスを感じている従業員に適切なケアやサポートを行うことが大切です。対応を誤ると従業員の休職や退職につながりかねません。ストレスとメンタルの不調の関連性に注意して、メンタルヘルスケア対策を徹底することが大事です。
ストレスの増大
自らの感情をコントロールし、常にプロフェッショナルとして振る舞うことは大きなストレスを伴います。勤務時間中は緊張の糸が張り詰めていて、一時も気を抜くことはできません。さらに、相手(顧客)が過剰な要求をしてきたり、クレームを付けてきたりする場合には、さらなる緊張を強いられるでしょう。
こうした状況の中でもプロとしての対応を求められ、感情を表に出さずに業務を続行しなければならないのが感情労働です。仕事に真面目に取り組む人ほどダメージは大きくなり、心身の不調につながるケースが少なくありません。
メンタルヘルスケア対策
従業員の心の健康を守るためには、小さな悩みを気軽に相談できる窓口を設置するなどの環境整備が欠かせません。従業員と管理職の間で定期的にミーティングを行ったり、産業医と連携して不調をきたした従業員をサポートしたりすることも大事です。
このほか、会社全体で以下のような取り組みを進めましょう。
メンタルヘルス教育
会社として行うメンタルヘルスケア対策には、大きく4つのポイントがあります。
- 一人ひとりが行うセルフケア
- 管理職によるラインケア
- 産業保健スタッフによるケア
- 専門機関(社外)によるケア
セルフケアに関する研修会を開く場合には、メンタルヘルスケアに対する会社の方針を明らかにしたうえで、セルフケアの重要性を説明します。さらに、従業員が自分のストレスに気付くための方法、ストレス解消法などについてレクチャーするとよいでしょう。
ストレスチェック制度
ストレスチェック制度は、従業員が抱えるストレスについて定期的にチェックを行うもので、従業員数50人以上の会社では年に1度の実施が義務付けられています。ストレスチェックを行った後、医師に高ストレス者と診断された従業員や医師の面接指導を希望する従業員がいた場合、会社は産業医による面接指導を実施しなければなりません。
また、会社は従業員のストレスチェックの結果をデータ化し、医師にアドバイスを求めたり、必要があれば仕事内容の見直しを行ったりします。何よりも従業員のメンタルヘルスの不調を未然に防ぐ努力が求められます。
感情労働は精神的な負担大。対策を徹底して従業員の健康を守ろう!
人間はそれぞれに異なる個性や感情を持っているのが普通です。しかし、感情労働では感情をコントロールすることが求められるため、従業員には過度のストレスがかかります。もしも会社がこれを放置すれば、従業員の休職・離職につながりかねません。これを機に社内の体制をあらためて見直し、従業員のメンタルヘルスケア対策を徹底しましょう。