源泉徴収簿とは何か? 源泉徴収票との違いや作成方法などを解説
2022-11-01
大後 ひろ子
C-OLING代表 ブランディングコンサルタント
労務雇用管理
毎年年末に近づくにつれ、従業員に発行する「源泉徴収票」の作成で大忙し……という人も多いのではないでしょうか? 源泉徴収票には従業員一人ひとりの給与額や源泉徴収額を1年分記載する必要があるため、イチから計算していては膨大な時間がかかってしまいます。そうした事態を解消してくれるのが「源泉徴収簿」です。こちらの記事では、源泉徴収簿の基本的な知識や記入方法などをわかりやすく解説します。毎月少しずつ作業することにより、年末の作業負担が軽くなりますので、ぜひ内容を確認してみてください。
そもそも、源泉徴収簿とは?
源泉徴収簿は、従業員に支払う給与や賞与から差し引く源泉徴収税額のほか、従業員の扶養親族などの情報を記載する帳簿です。年末調整の際に「源泉徴収票」を発行するにあたって重要になる帳簿ですが、労務管理の基本となる「法定三帳簿」には含まれません。
国税法では「給与所得・退職所得に対する源泉徴収簿」の書式を提供しており、ホームページ上でデータをダウンロードできるほか、詳しい記入方法についても確認することができます。ただし、源泉徴収簿は法定帳簿ではく、書式が決まっているわけではありません。毎月の源泉徴収税額が正しく記載されていれば、給与台帳から源泉徴収簿を作成することも可能です。
「源泉徴収簿」と「源泉徴収票」は何が違う?
源泉徴収<簿>と源泉徴収<票>はたった1文字しか違わないため、混同してしまう人も多いようです。ここでは、それぞれの違いを3つのポイントに分けて解説します。
1)記載内容
源泉徴収簿
会社が従業員に支払う給与額・社会保険料などの控除額・源泉徴収額を記載する帳簿です。従業員に扶養する親族がいる場合は扶養控除の申告や年末調整の状況なども記載します。
源泉徴収票
会社が従業員に支払った1年分の給与の明細・所得税の源泉徴収額・社会保険料などを記載する書類です。
2)作成する義務・提出先
源泉徴収簿
源泉徴収簿の作成は法律で義務付けられているわけではなく、必要事項が記載されていれば書式も自由です。給与の源泉徴収を行う者(会社)が帳簿を作成・保管し、社内にて保管します。
源泉徴収票
源泉徴収票は、所得税法などで定められた法定調書です。給与の源泉徴収を行う者(会社)は、源泉徴収票を2通作成しなければなりません。1通は従業員に交付し、1通は税務署に提出します。
3)作成する時期
源泉徴収簿
源泉徴収簿には、従業員に毎月支払う給与額などを記載します。そのため、作業は毎月発生します。
源泉徴収票
源泉徴収票の発行が必要になる場面は大きく2つあります。年末調整を行うとき、従業員が退職するときです。
源泉徴収簿の作成方法
源泉徴収簿には、従業員一人ひとりの情報を記載します。作成する際には、あらかじめ以下のような資料を準備しておくとスムーズです。
- 従業員の住所・生年月日・所属する部署名・役職名を確認できる資料
- 従業員に毎月支払っている総額(給与・手当を含む)・社会保険料・扶養親族の人数などを確認できる資料
源泉徴収簿に記入するのは大きく2つ、(1)の個人情報と(2)の給与・賞与・各種手当の金額などです。一般に、帳簿の表面には最終的な金額を記載し、裏面にはその内容を記載します。
従業員の個人情報
国税庁が公開している「給与所得・退職所得に対する源泉徴収簿」の書式では、用紙最上部の左から順に・所属・職名・住所(郵便番号)・氏名(フリガナ)・生年月日 を記載することになっています。確定申告をした際に税務署から割り当てられた番号があれば、「整理番号」の欄に記載します。
給与・賞与・手当など
従業員への給与の支払いは毎月発生します。給料日などのタイミングで総支給金額・社会保険料控除後の給与額などを記入し、扶養親族の人数なども確認するようにしましょう。
総支給金額
まず裏面の「給料・手当等の支給金額の内訳」に毎月支給する各種手当を記入します。その後、表面に「月日」と「総支給金額」を転記するようにすれば、間違いをなくすことができるでしょう。
社会保険料の控除額・控除後の給与額など
法定帳簿の1つである賃金台帳を確認しながら「社会保険料等の控除額」を記入します。その後「社会保険料等控除後の給与等の金額」を算出して記入します。
扶養親族
あらかじめ従業員に「扶養控除等申告書」の提出を求め、これを参考に記入します。この場合の「扶養親族」には16歳未満の親族は含まれません。
算出税額
源泉徴収税額表を確認しながら税金の額を算出して記入します。このとき、扶養親族の人数などによって税額が変わることがあるので注意が必要です。
賞与
賞与が支払われる場合は、支給月に合わせて記入するようにします。毎月の給料日と違って支払い日が一定ではないため、抜け・漏れがないように注意しましょう。
年間合計
1年間(~12月まで)の記入を終えたら、最後に年間合計の欄を記入します。
源泉徴収簿の活用方法【年末調整】
毎月きちんと源泉徴収簿の記入を行えば、年末調整にまつわる煩雑な作業をスリム化できます。
1)源泉徴収簿に必要事項を記入
源泉徴収簿の左側にある「給料・手当等」「賞与等」内の「総支給金額」「社会保険料等の控除額」「算出税額」の金額を合計して該当する欄に記入します。
2)(1)の内容を転記
右側にある「年末調整」内の該当箇所に左側の数字を転記します。
3)「給与所得控除後の給与等の金額」を算出
右側に記載した「給与・手当等」「賞与等」を合計し、所得税控除後の金額を計算して記入します。
4)扶養親族の申告・控除額の計算
申告の有無の欄に「○」をつけ、扶養人数の人数を記入します。この情報に基づいて、控除額を計算して「配偶者控除額、扶養控除額、基礎控除額及び障害者等の控除額合計額」に金額を記入します。
5)保険料控除額を記入
従業員から提出された「保険料控除申告書」をもとに、各種保険料の控除額を記入します。
6)算出所得税額の計算
「給与所得控除後の給与等の金額」から「所得控除額の合計額」を引いて所得税を計算します。
7)年調年税額を記入
年調年税額は、年調所得税額を102.1%(復興特別所得税を含む)にした金額です。
源泉徴収簿を適切に管理して、年末調整をスムーズに行おう!
源泉徴収簿と源泉徴収票……たった1文字しか違わない書類でも、その役割は大きく異なります。源泉徴収簿の作成は、法律に定められているわけではありませんが、毎月の給料などをきちんと記入しておけば、源泉徴収票の作成がぐっと楽になります。源泉徴収簿のフォーマット(書式)は国税庁のホームページからダウンロードできますので、ぜひ活用しましょう。