競業避止義務とは? 法的効力の有無や義務違反となるケースを解説
2022-11-01
大後 ひろ子
C-OLING代表 ブランディングコンサルタント
労務リスクマネジメント
営業成績トップの従業員がライバル会社に転職した途端、大口クライアントとの取引が白紙になってしまった。信頼していた従業員が独立を果たし、会社の存続が脅かされている……映画やドラマで目にするようなシーンは、どの会社にも起こりうることです。こうした競業行為を禁じ、会社が守るべき利益を保護する取り決めが「競業避止義務」です。こちらの記事では、競業避止義務の基本的な知識や、どのようなケースが競業行為にあたるのかなどを解説します。これまでに築き上げた会社の文化や利益を守るためには何をすべきか、ぜひ確認してみてください。
そもそも、競業避止義務とは?
競業避止義務――何だか難しそうなこの言葉は「きょうぎょうひしぎむ」と読みます。競業避止義務では、今現在勤めている会社から「競合する会社に転職すること」「競合する会社を設立すること」などを禁ずることができます。就業規則などに競業行為を禁止する規定を盛り込み、これを社員の義務とするのが一般的です。
就業規則に競業避止義務の規定がある場合、従業員は今所属している(以前所属していた)会社と競合する会社に転職したり、競合することが予想される会社を設立したりすることはできません。つまり、競業避止義務は情報漏洩対策の1つであり、正社員・契約社員に加えてパートやアルバイトにも適用する会社が少なくありません。
もしも競業避止義務に違反する行為(競業行為)があった場合は、会社から以下のようなペナルティを課せられる恐れがあります。
- 退職金の支給制限(減額など)
- 損害賠償請求
- 競業行為の差し止め請求
競業避止義務【従業員の場合】
一般に、会社に所属する従業員には競業行為をしないことが求められます。これは、労働契約法にある「労働者及び使用者は、労働契約を順守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない」との一文からもわかります。
上記のように、競業避止義務は会社が独自に定めているものではなく、法律による裏付けもあります。そのため、在職中の従業員による競業行為が発覚した場合には、懲戒処分・損害賠償請求・解雇などに発展する恐れがあります。
競業避止義務【取締役の場合】
役職のない従業員と取締役の立場では、競業避止義務の扱いが異なります。これには、「競合及び利益相反取引の制限」について定めた会社法第356条が関係しています。
取締役の立場にある人が何らかの取引を行おうとする場合には、株主総会で事前に了承を得なければなりません。さらに、社内に取締役がいる会社では取締役会における事前承認・事後報告が義務化されています。
このように、会社を代表する立場である取締役に対しては、一般の従業員よりもさらに厳しい規定が設けられています。大きな権限を背景に自身の利益を増大し、会社の利益を犠牲にすることを防止することが目的です。
競業避止義務【退職後の場合】
不正競争防止法では会社に所属する従業員に対して、営業上の秘密を不正に利用・開示することや、不正な手段で取得した情報を利用・開示することを禁止しています。つまり、会社はこれらの競業行為から保護される立場にあります。
しかし、競業行為にさらされるリスクは従業員の在職中に限りません。営業上知り得た重要な秘密を競合他社に利用されることがないよう、従業員の退職後も競業避止義務を課す会社も少なくありません。
一方で、日本国憲法では「職業選択の自由」に関する定めがあり、退職後の競業避止義務を無効とする動きもあります。これに対して会社は、就業規則などに競業避止義務違反に関する罰則規定を盛り込むなどしていますが、両者の見解の相違から裁判に発展するケースも少なくありません。
競業避止義務の有効性を判断する3つの基準
競業避止義務が適用されるかどうかは、判断が難しいケースが多いです。憲法で保障された「職業選択の自由」と労働契約法に基づく「競業避止義務」の2つに照らし合わせる必要があるからです。ここでは、どのような場合に競業避止義務違反とみなされるのかを解説します。
<h3>1)会社として守るべき利益があるか
「会社として守るべき利益」とは、営業上知り得た秘密や情報、ノウハウのことを指します。その事例が競業避止義務違反であるかを判断する際には、
- 会社として守るべきノウハウかどうか
- 一定のスキルを備えた従業員かどうか
- 会社の利益を損なう情報が流出したかどうか
などを確認する必要があります。就業規則などにおいて従業員の「職業選択の自由」を侵害しなければ、競業避止義務の有効性が認められるでしょう。
2)従業員の役職・肩書き
ここでいう「役職」や「肩書き」は、課長や部長といった形式的な地位を指すわけではありません。競業避止義務の対象となるのは「会社が守るべき利益」に触れるチャンスのある従業員です。過去の判例では、たとえ高い地位に就いている場合でも「会社が守るべき利益」と関係のない仕事に従事している従業員については競業避止義務違反を認めていません。
3)競業避止義務の対象期間
会社に在籍している従業員に対して競業避止義務が課せられるのは、ごく一般的なことです。しかし、会社を退職した従業員に対して「退職後○年間は競業避止義務を守るように」との明確な規定は存在しません。
このため、競業行為にあたるかについては「業種ごとの特色」「会社が守るべき利益を保護する手段として合理性があるか」が判断材料になります。一般に、従業員の退職後半年~1年以内であれば認定される可能性が高く、2年以上経過している場合は競業行為として認められないケースが多いようです。
「競業行為」は会社の不利益につながる恐れも。適切な対応を確認しておこう!
競業避止義務の目的は他者からの不当な侵害を退け、会社の利益を守ることです。ひと昔前とは異なり、最近は1人の従業員が定年まで同じ会社で働くケースが少なくなりました。人材の流動化が加速する中で、会社の利益をいかに守っていくかが重要な課題になっています。コンプライアンス対策や情報漏洩対策が求められる今、自社の体制をもう一度見直してみてはいかがでしょうか。