試用期間中に解雇するには? 不当解雇とみなされないための注意点
2022-10-26
大後 ひろ子
C-OLING代表 ブランディングコンサルタント
労務雇用管理
求人広告を眺めていて「試用期間」という言葉を目にしたことがある人も多いのではないでしょうか。本採用に向けて多くの会社が設定している試用期間ですが、その内容は実にさまざまです。こちらの記事では試用期間にまつわる基本的な知識のほか、もしも従業員を解雇したいときはどうしたらよいかなどを詳しく解説します。不当解雇として訴えられることがないよう、注意すべきポイントをしっかり確認してください。
「試用期間」とは、どんな期間のこと?
試用期間とはその名のとおり、雇用する予定の従業員の能力や適性などを見極めるためのお試し期間です。試用期間については、労働基準法などに明確な規定があるわけではありません。そのため試用期間を設けるかどうかは任意となりますが、もしも設定する場合には労働契約書や雇用契約書に内容を明記する必要があります。
入社した従業員の業務遂行能力やコミュニケーション能力を把握することは、1日、2日でできるわけではありません。そのため、試用期間を導入している多くの会社が1〜3ヶ月程度の時間をかけて、雇用を維持するかどうかを判断しているようです。
雇用条件
試用期間は法律に定められている制度ではありません。そのため、試用期間中の待遇をどうするかは会社の判断に任されています。ある会社では本採用となった場合と同じ給与や就労時間を適用し、ある会社では「試用期間中は給与の○%を支払う」という一文が雇用契約書に記載されていたりします。また、試用期間中の身分は契約社員、本採用時に正社員に切り替えて正式に雇用するという会社もあります。
労働契約
試用期間中は、会社側に雇用契約を解除できる権利があります。一般に、試用期間中の雇用形態は「解約権留保付労働契約」とみなされます。解約権とは契約を白紙に戻せる権利のことで、留保付とは効力が持続することです。つまり、試用期間中に予想外の出来事が起こったとき、会社は従業員との契約を白紙に戻すことができるのです。
もちろん、会社側の一方的な都合で従業員を解雇できるわけではありません。しかし、正式な雇用契約が成立した後よりも、解雇にあたって幅広い理由が認められることは確かです。
試用期間中に解雇に至るケースとは?
試用期間中に従業員を解雇したいと考える理由として、勤務態度の悪さや能力不足などが挙げられるでしょう。こうした理由によって解雇が認められるケースはありますが、一方で会社の指導体制なども判断材料とされます。多くの場合「合理的な理由があるか?」「妥当性があるか?」を基準にして解雇の正当性が判断されます。
欠勤・遅刻・早退
試用期間中の解雇理由でもっとも多いのが、勤務態度の悪さのようです。遅刻や欠勤をする際に会社に連絡を入れない、個人的な事情で早退することが多いなどのケースです。
試用期間中にルールを無視した行動を繰り返すようなら、本採用拒否の正当な理由になり得ます。ポイントになるのは遅刻や欠勤の頻度、通院や体調不良など特別な事情があるかどうかです。まずは従業員からヒアリングを行い、会社として適切な指導や注意喚起をしたうえで、改善がみられない場合に解雇を検討します。
能力不足(成績不良)
業務に対する適性があるか、業務を遂行するのに十分な能力があるか、これらは試用期間中にぜひとも確認しておきたいことでしょう。一般に試用期間は1~3ヶ月、長くて6ヶ月までの期間に設定されます。会社はこの期間を利用して従業員に仕事を覚えてもらうわけですが、特に能力不足を感じる対象者に対しては積極的に指導を行います。
能力が不足していることだけを理由に従業員を解雇することはできません。たとえ当該従業員の能力が劣っていたとしても、会社として適切な指導やサポートがなされていなければ不当解雇とみなされる可能性が高いです。もし裁判になったとき「解雇無効」の判断を回避できるよう、本採用拒否の基準を明確にするとともに、新規採用者に向けたサポート体制を整備しておくとよいでしょう。
協調性の欠如
ほかの従業員と度々トラブルを起こしたり、上司からの指示を無視した行動を取ったりする場合も勤務態度に問題があるといえます。会社としてはその場で指導や注意喚起をする必要がありますが、もしも当該従業員が素直に従わない場合には解雇の正当性が認められるでしょう。ただし、この場合も遅刻や欠勤と同様に、トラブルの頻度や反抗の程度がポイントになります。
経歴詐称
従業員に重大な経歴詐称が判明した場合は解雇が妥当だと考えがちです。しかし、経歴詐称の内容によっては、解雇の正当性が認められない場合もあります。解雇が有効となるほど重大な経歴詐称といえるのは学歴・職歴・犯罪歴のほか、業務に必要な資格・免許の取得状況などです。
試用期間中に解雇する場合の注意点
試用期間中は会社側に雇用契約を白紙に戻す権利があるとはいえ、解雇には合理的な理由や客観性が求められます。従業員の解雇を検討する場合は、以下の点に気をつけましょう。
改善や弁明のチャンスを与える
勤務態度の悪さが目についたり、明らかな能力不足が認められたりする場合でも、試用期間中の従業員をいきなり解雇することはできません。まずは会社として適切な指導を行って勤務態度を改めさせ、スキルアップをサポートすることが大事です。
会社が積極的に介入したにもかかわらず改善が見られない場合は、従業員の意見もしっかりと聞いたうえで解雇の理由を伝えます。ポイントは、従業員にきちんと納得してもらうことです。話し合いの場を設けずに一方的に解雇するようなことがあれば、不当解雇として訴えられる恐れがありますから注意してください。
解雇手続きのポイントは、試用期間開始から14日
労働基準法第21条により、試用期間のスタート後14日以内の解雇であれば解雇予告は必要ないことになっています。しかしこの場合も、解雇にあたって客観的かつ合理的な理由が存在し、解雇が妥当であると認められなければなりません。
一方で、試用期間開始後14日を過ぎている場合は、正社員を解雇するときと同じ手続きを行わなければなりません。基本的に、解雇日の30日前までに従業員に対して解雇予告を行います。もしも解雇予告から実際の解雇日まで30日未満の場合、会社はその日数分の賃金を支払う必要があります。
試用期間中に従業員を解雇する際は、適切な手続きを心がけよう!
試用期間は、会社と従業員がお互いの相性を見極める「お試し期間」だといえるでしょう。会社はこの期間を利用して従業員の雇用を維持するかどうかを判断するわけですが、すべてが順調に進むとは限りません。従業員が入社した後に起こりうるさまざまな問題を想定し、事前に社内の教育・指導体制を整備しておくようにしましょう。