社会保険料の計算方法は? 社会保険の種類や基礎知識をくわしく解説
2022-10-07
大後 ひろ子
C-OLING代表 ブランディングコンサルタント
労務雇用管理
給与明細書を見ると、総支給額からはさまざまな名目で「控除」がなされています。健康保険・厚生年金・雇用保険……これらはすべて、働く人の「もしも」に備える社会保険です。月々支払っている金額は把握していても、どのように算出されているのかご存じない方も多いのではないでしょうか? こちらの記事では、社会保険制度についての基本的な知識や保険料の計算方法をわかりやすく解説します。計算式は意外とシンプルなので、ぜひ保険料の算出にトライしてみてください。
社会保険は全部で5種類
社会保険は、公的な費用負担による社会保障制度です。民間の生命保険や損害保険などとは異なり、一定の要件を満たす労働者であれば加入できます。
社会保険のベースとなっている相互扶助の理念は、「一人は万人のために、万人は一人のために」。この考えをもとにお互いが資金を出し合って、
- 病気
- ケガ
- 失業
- 労働災害
- 加齢
- 介護
などのリスクに備えましょう、というのが社会保険の大きな目的です。
会社や従業員に関わりが深い保険には、「健康保険」「厚生年金保険」「介護保険」「雇用保険」「労災保険」があります。
健康保険
健康保険は、業務に関わりのないところで発生した病気やケガによる通院や入院を保障する医療保険です。健康保険事業を行う協会けんぽや組合保険などを「保険者」、健康保険に加入している人を「被保険者」、被保険者の扶養家族は「被扶養者」と言います。
厚生年金保険
厚生年金保険は、高齢のために働けなくなったり、病気やケガによる障害が残ったりした際に被保険者の生活を支えるための公的年金です。老後の生活には「老齢年金」、病気やケガによる障害には「障害年金」、被保険者が死亡した場合には残された遺族に「遺族年金」が支給されます。
介護保険
介護保険は、介護サービスが必要になった際に費用の一部を負担してくれる保険です。40~64歳の従業員がいる場合は、健康保険料にプラスして介護保険料も納める必要があります。
雇用保険
雇用保険の目的は、失業中や育児(介護)休業中の生活保障です。そのため、給付金の支払い対象となるのは、失業者・育児休暇(介護休暇)を取得した労働者です。また、正規雇用労働者でなくても、「労働時間・週20時間以上」「31日以上の雇用」の2つの条件をクリアすれば雇用保険の対象となります。
労災保険
労災保険は、仕事中や通勤中など業務上の病気・ケガ・障害・死亡について、従業員とその家族の生活を保障する制度です。職場内における事故や、通勤途中に発生した災害などが対象となります。雇用期間や労働時間などに関係なく、労働基準法で定めるすべての「労働者」が保障を受けられます。
社会保険料の計算【準備編】
社会保険料を算出するにあたり、計算式の中には「標準報酬月額」「保険料率」などの言葉が出てきます。多くの人にとって耳慣れない言葉だと思いますので、まずはこの2つの言葉の意味を解説しましょう。
標準報酬月額とは?
標準報酬月額は、保険料を計算するときに基準となる金額です。従業員が受け取る報酬を金額ごとに分け、その等級に応じて保険料を算出します。たとえば、厚生年金保険の標準報酬月額は、88,000円(1等級)から650,000円(32等級)まで32の等級があります。この「報酬」には、給与だけでなく通勤手当をはじめとした各種手当も含まれます。
保険料率とは?
保険料率は、都道府県ごとに違いがあります。これは、保険料率がその地域の医療費をベースに算出されるためです。医療費(支出)は地域によって異なるため、保険料率にも差が出てしまうのです。ただし、厚生年金保険(18.3%)など保険料率が固定されているものもあります。
社会保険料の計算【実践編】
一口に「社会保険」と言ってもそれぞれ目的が異なるように、保険料の計算方法も保険の種類によって違いがあります。
健康保険料の計算方法
健康保険料の計算式は、「標準報酬月額」×「健康保険料率」です。
- 健康保険料率は、都道府県ごとに異なります。
- 健康保険料は、会社と従業員が半分ずつ支払います。
厚生年金保険料の計算方法
厚生年金保険料(月々)の計算式は、「標準報酬月額」×「厚生年金保険料率」です。
厚生年金保険料(賞与)の計算式は、「標準賞与額」×「厚生年金保険料率」です。
- 厚生年金保険料率は、全国一律18.3%です。
- 厚生年金保険料は、会社と従業員が半分ずつ支払います。
介護保険料の計算方法
介護保険料の計算式は、「標準報酬月額」×「介護保険料率」です。
- 介護保険料率は、全国一律1.8%です。
- 介護保険料は、会社と従業員が半分ずつ支払います。
雇用保険料の計算方法
雇用保険料の計算式は、「賃金総額」×「雇用保険料率」です。
- 賃金総額とは、会社が従業員に支払った金額(税金などの控除前)の総額です。
- 雇用保険料率は、事業の種類により異なります。
- 雇用保険料は、会社と従業員がそれぞれ一定の割合で支払います。
労災保険料の計算方法
労災保険料の計算式は、「賃金総額」×「労災保険料率」です。
- 労災保険料率は、事業の種類により異なります。
- 労災保険料は、会社が全額負担します。
社会保険の計算は2つのポイントに注意!
社会保険の保険料率は、地域や業種によって異なる場合があるので確認が必要です。以下の2点についても注意しましょう。
従業員の年齢
従業員の年齢に注意する必要があるのは、健康保険です。従業員が40歳になると強制的に介護保険に加入し、保険料を支払わなければなりません。従業員が40歳を迎えるタイミングで保険料がアップ(健康保険料+介護保険料)しますので注意してください。
昇給・降給・各種手当
健康保険料をはじめとした計算式のベースとなる「標準報酬月額」は、その年の4月から6月までの3ヶ月間に支払った報酬をもとに決定します。その後、給与アップや手当の支給などによって大幅な増減があった場合は、標準報酬月額の変更手続きを行います。
社会保険料の計算は、ポイントを押さえて丁寧に行いましょう!
社会保険料の計算式は、それぞれの従業員の「標準報酬月額」または「賃金総額」がベースになっています。一方の「保険料率」については地域や事業の種類などによって違いがあるため、正しく計算するには従業員の年齢などを含めてしっかり確認する必要があります。最近では社会保険料を自動計算してくれる「給与計算システム」などもありますので、上手に活用するといいでしょう。