借り上げ社宅とは何か? 住宅手当との違いや導入メリットなどを解説
2022-11-24
大後 ひろ子
C-OLING代表 ブランディングコンサルタント
労務福利厚生
労働人口の減少に伴う人材不足が叫ばれるなか、多くの会社が魅力あふれる福利厚生制度を打ち出しています。福利厚生の代表的なものに会社が住居費を負担する制度がありますが、労使双方にメリットのある「借り上げ社宅」はご存知でしょうか? こちらの記事では借り上げ社宅の仕組みや住宅手当との違いなどをわかりやすく解説します。導入時に気をつけたいポイントについても触れていますので、ぜひ参考になさってくだい。
そもそも、借り上げ社宅とは?
借り上げ社宅は、会社名義で借りた賃貸住宅を従業員に貸し出す制度のことです。あらかじめ会社が不動産業者から「借り上げた」住居を従業員に斡旋するシステムであり、従業員が業者と直接やり取りする必要はありません。
借り上げ社宅は社員満足度が高い福利厚生の一つとして知られ、採用面においても有効な施策となっています。とくに国内外を問わず転勤する人が多い会社では、借り上げ社宅制度の導入が進んでいるようです。
借り上げ社宅と住宅手当の違い
住宅に関する福利厚生の代表的なものに「住宅手当」があります。借り上げ社宅と住宅手当の大きな違いは、不動産業者との交渉窓口が誰になるかです。
借り上げ社宅の場合は、不動産業者から住居を借りて賃料を支払う窓口は会社です。会社は従業員に毎月支払う給与から家賃分を徴収し、従業員に代わって不動産業者に家賃の支払いを行います。つまり、従業員からすると会社は「大家さん」のような存在ということになります。
住宅手当の場合は従業員が窓口となって不動産業者と賃貸契約を交わし、敷金・礼金・家賃といった金銭的なやり取りのすべてを個人で行います。一方、会社は毎月の給与に上乗せする形で住宅手当を支給します。
上記のことから借り上げ社宅と住宅手当は単にシステムが違うというだけでなく、税金や保険料にも影響を及ぼします。
借り上げ社宅のメリット
借り上げ社宅は、会社と従業員のどちらにもメリットをもたらします。それぞれどんなメリットがあるのか確認してみましょう。
従業員側のメリット
- 物件を探す手間が省ける
- 面倒な手続きが必要ない
- 家賃の一部を会社が負担してくれる
- 更新時の手数料が必要ない
- 節税対策になる
たとえば、海外勤務を終えて日本に戻る際、海外から物件を探すのは大変な労力を伴います。こうした場合に借り上げ社宅を利用することができれば、従業員の負担は大きく軽減するでしょう。また、借り上げ社宅は通常の賃貸物件に比べて安い賃料で借りられるのが一般的で、更新料も発生しません。さらに、家賃は毎月の給与から引かれるため、所得税が減額されるというメリットもあります。
会社側のメリット
- 社員の転勤をサポートできる
- 社員の満足度アップが期待できる
- 採用活動を有利に進められる
- 節税対策になる
借り上げ社宅は転勤の多い会社で導入が進んでいる傾向があります。住居の心配をせずに働くことができれば従業員の満足度は高まり、福利厚生制度の充実は求職者にとって魅力的に映るでしょう。また、従業員の給与から家賃を差し引くことで給与額を低く抑えることができれば、会社が負担する社会保険料なども軽減できます。
借り上げ社宅のデメリット
従業員の立場において借り上げ社宅にデメリットは見当たりません。しかし、会社側にはさまざまな手続きや気をつけたいポイントがあります。
契約・支払い等
借り上げ社宅制度を導入する場合には会社が窓口となって賃貸物件を選び、不動産業者と賃貸契約を交わす必要があります。契約の手続きや月々の家賃の支払いなどはすべて会社が行うことになり、従業員が不動産業者と接触することはありません。このため、何かトラブルがあった際は会社が介入する必要が出てきます。トラブルを未然に防ぐ意味からも、借り上げ社宅に入居できる人や同居が認められる範囲、退去の条件などをあらかじめ定めておくとよいでしょう。
空室リスク
ごく当たり前のことですが、不動産会社と賃貸契約を交わした物件には賃料が発生します。居住中・空室にかかわらず会社は毎月の家賃を支払う必要があるため、空室が出ないように管理しなければなりません。とはいえ、常に100%の稼働率をめざすのは難しいため、ある程度の経費を見込んでおくとよいでしょう。
賃貸料相当額
借り上げ社宅のメリットとして節税対策を挙げましたが、節税効果を得るためには一定の条件があります。従業員の給与から差し引く家賃が賃貸料相当額を上回っていないと非課税にならないため注意が必要です。事前にきちんと計算し、課税対象とならないかどうかよく確認してください。
賃貸料相当額の計算方法
賃貸料相当額は、以下の3つを合計した金額を指します。
- (その年の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2%
- 12円×(その建物の総床面積(㎡)÷3.3㎡)
- (その年の敷地の固有資産税の課税標準額)×0.22%
借り上げ社宅制度をよく理解し、適切な運用を心がけよう!
借り上げ社宅は会社が任意に導入する福利厚生制度であり、従業員が負担する月々の家賃も会社によってさまざまです。上手に運用することで従業員満足度の向上や節税効果などが期待できる制度ですが、導入にあたって気をつけるべき点も多くあります。借り上げ社宅の運用にあたって大切になるのは、会社と従業員が負担する割合を明確にしておくことです。事前にしっかりとした社内規定を作成し、双方の合意のもとで運用をスタートしましょう。