産前休暇(産休)とは何か? 取得方法や仕組みなどをくわしく解説
2022-11-29
大後 ひろ子
C-OLING代表 ブランディングコンサルタント
労務福利厚生
男性は外で働き女性は家庭を守る……そんな時代から日本の社会は大きく変化しました。今では女性も男性と肩を並べて働き、結婚や出産後も仕事を続ける人が少なくありません。これを受けて国も環境整備を進めていますが、実際に当事者となった場合にどのようなサポートを受けられるのかご存知でしょうか? こちらの記事では、出産を控えた女性の取得が認められている「産前休暇」を中心に、「産後休暇」や「育児休業制度」についても解説します。産前休暇では、生まれてくる子どもが1人か2人以上かによって取得日数が異なりますので、ぜひ内容を確認してみてください。
そもそも、産前休暇とは?
一般に「産休」と呼ばれる「産前産後休業」は、労働基準法で定められた女性従業員の権利です。名前に「産前産後」とあるように、出産を控えた女性従業員が取得できる産前休暇、出産後に取得できる産後休暇とに分けられます。
産前休暇
産前休暇は、生まれてくる子どもが1人(単胎妊娠)か、双子以上かによって取得できる日数が異なります。
単胎妊娠:出産予定日の6週間(42日)前から取得可能
双子以上:出産予定日の14週間(98日)前から取得可能
上記はあくまでも原則であり、本人の希望によっては出産直前まで働くことも可能です。実際に出産した日が予定日より早まった場合は産前休暇が短くなりますが、予定日より遅れて出産した場合でも出産日までを産前休暇として扱います。
産後休暇
産後休暇は、出産の翌日から起算して8週間の取得が可能です。このため、もしも予定日から遅れて出産した場合でも取得できる日数が減ることはありません。産後休暇中の8週間は原則として就業が認められませんが、本人の希望・医師の許可により産後6週間からの就労が可能です。
なお労働基準法第19条では、産休(産前産後休業)中及びその後30日間に従業員を解雇することを禁止しています。
「産休」と「育休」の違い
労働基準法に定められた産休は、働くママたちが安心して出産・子育てできる環境を支援する制度です。一方の育休(育児休業制度)は生まれた子どもの健やかな成長を支援する制度であり、ママだけでなくパパの休暇取得も可能です。
産休の対象となる人
産前産後休業は雇用形態などにかかわらず、働く女性すべてに休暇取得の権利があります。正社員・契約社員・派遣社員・パート・アルバイトなど、働き方や就業期間を問わずに取得することが可能です。
産休の取得方法
産前休暇・産後休暇はそれぞれに目的が異なり、取得方法も異なります。
産前休暇:出産準備を目的とした任意の休暇制度/従業員が会社に申請して取得する
産後休暇:出産後の体の回復を目的とした休暇制度/従業員には取得義務がある
育休の対象となる人
育児休業も産休と同じく雇用形態などにかかわらず取得できますが、以下の3つの条件を満たす必要があります。
同じ会社に1年以上にわたり継続勤務している
子どもが1歳になった後も働く意思がある
子どもが2歳になる2日前までに雇用契約が満了とならない/契約の更新が約束されている
産休が誰でも必ず取得できる休暇制度であるのに対し、育休の取得にはいくつかの条件があります。とくに契約社員や派遣社員として働いている場合、契約満了日によっては育休の取得が難しくなるケースがあります。
育休の取得方法
育休を取得するには、休業開始を希望する日の1ヶ月前に申請する必要があります。育休の取得は必ずしも出産後すぐに、ということはありません。条件さえクリアしていれば、育休期間中(子どもが1歳の誕生日を迎える前日まで)いつでも申請することが可能です。
産休中の給与と各種手当
産休中の従業員は働くことができず、原則として給与保障もありません。そのため、給与に代わるものとして、従業員の生活支援を目的にした給付金や手当などがあります。
出産手当金
出産手当金は、産休に入った従業員や家族の生活を守り、安心して出産や子育てができるように支える制度です。会社から給与が支給されない場合でも、健康保険の保険給付として「出産手当金」を受け取ることができます。
出産手当金を受け取れる期間
出産手当金を受け取れる期間は、生まれてくる子どもが1人(単胎妊娠)か、双子以上かによって異なります。
単胎妊娠:出産した日の42日前から/出産翌日から56日目まで
双子以上:出産した日の98日前から/出産翌日から56日目まで
上記の範囲において会社を休んだ日数分が出産手当金となります。たとえ出産予定日が前後することがあっても、出産日に基づいて支給されます。
出産育児一時金
出産育児一時金は、保険適用とならない部分の出産費用を補てんする目的で支給されます。妊娠4ヶ月(85日)を超えて出産した場合、会社が加入している健康保険から42万円(1児につき)を受け取ることができます。
出産育児一時金には直接支払制度があり、この制度を利用すれば医療機関で入院費などを自己負担する必要がなくなります。
「産休」で覚えておきたいポイント
妊娠・出産は女性の人生において非常に大きなイベントです。従業員やその家族が不安なく過ごせるよう、イレギュラーなケースも覚えておくといいでしょう。
公務員の産休
従業員のパートナーが公務員の場合、一般的な会社員とは産前休暇の取得期間が異なります。
公務員ママ:単胎妊娠・出産予定日の8週間前から/双子以上・出産予定日の14週間前から
一般職ママ:単胎妊娠・出産予定日の6週間前から/双子以上・出産予定日の14週間前から
上記のように単胎妊娠の公務員ママでは育休が2週間長くなるものの、双子以上の場合は変わりません。また、産後休暇は両者ともに8週間となります。
出産予定日が前後した場合
産休の申請を行うのは妊娠8ヶ月頃、出産予定日の6週間前頃というのが一般的です。しかし、赤ちゃんは予定通りに生まれてくるとは限りません。出産後に書類の内容を修正するのはよくあることです。
出産予定日から遅れて出産した場合、遅れた分の日数は産前休暇として扱われます。反対に、出産が予定日よりも早まった場合は産前休暇が短縮され、出産の翌日から産後休暇となります。
産休中の待遇
産前産後休業は労働基準法に定められた労働者の権利です。休暇取得を理由に従業員に対して不当な扱いをすることは禁じられており、ボーナスの支給額などには影響がないことが一般的です。また、たとえボーナスを受け取ったとしても、出産手当金などの支給には影響がありません。
従業員が不安なく出産や子育てができるよう、しっかりとサポートしよう!
少子高齢化が進む日本において、新たな命の誕生は歓迎されるべきことです。また、赤ちゃんを迎える準備のための産前休暇、出産後の母体の回復を目的とした産後休暇は法律に定められた労働者の権利でもあります。それぞれの制度の仕組みを理解して、産休・育休を取得しやすい環境を整備しましょう。