雇い止めとは何か? トラブル回避に役立つ基礎知識・対処法をくわしく

2022-10-11

大後 ひろ子

C-OLING代表 ブランディングコンサルタント

労務雇用管理

従業員の雇用を維持するには、会社として大きな努力が必要です。社会情勢の変化や経営の悪化などにより、従業員を解雇せざるを得ない場面があるかもしれません。そうしたとき、真っ先にリストラの対象となるのは非正規雇用労働者だといえるでしょう。こうした背景があることから、国は有期雇用労働者を保護するため、会社が安易に「雇い止め」をしないようルールづくりを進めています。こちらの記事では、雇い止めにまつわる基本的な知識やトラブルを未然に防ぐための対策について解説します。会社として従業員と真摯に向き合い、トラブル回避に努めましょう。

そもそも、雇い止めとは?

雇い止めとは、労働期間を定めて雇用している非正規雇用の従業員に対して契約の更新を認めないことです。有期労働契約の期間満了と同時に契約が終了となり、いわゆる「派遣切り」と同様の意味があります。

本来、期間の定めがある労働契約(有期労働契約)では、期間満了に伴って自動的に契約が終了します。しかし、労使双方の合意があれば、任意で雇用契約を更新・継続することも可能です。

こうして数回にわたり有期労働契約の更新が行われ、

などの場合、従業員としては「再び契約が更新されるもの」と期待するのは当然でしょう。

これまで当たり前のように繰り返された契約の更新を、会社の都合で一方的に拒否することは認められません。労働契約法には有期雇用労働者を保護する条文があり、これに該当する場合は会社として契約更新を拒絶することはできません。

「雇い止め法理」は労働者の味方?

過去に最高裁判所で確立された「雇い止め法理」に基づき、2012年に労働契約法が改正されました。第19条には、一定の条件を満たす場合において会社側の雇い止めは認められないとの内容が明記されています。

労働契約法第19条(要約)

労働契約法第19条では、次のいずれかの条件を満たす場合に契約の更新が認められるとしています。

「不更新条項」は会社の味方?

不更新条項とは、有期雇用労働者と交わす契約書の中に「今回の契約が最後である。次回の契約期間満了時は契約の更新をしない」との内容を記載しておくことです。有期雇用契約の更新を数回にわたり繰り返している場合でも、新しい契約書に不更新条項を盛り込んでいれば、原則として契約期間満了とともに契約も終了となります。

ただし、この原則をそのまま適用すれば有期雇用労働者の立場(生活)が不安定になってしまいます。そのため、先の労働契約法改正により、有期雇用労働者の雇用期間が満5年を超えた場合には労働者からの申し出により有期労働契約を無期労働契約(期間の定めのない労働契約)に変更できることとしています。
※2013年4月1日以降に開始された有期労働契約が対象

雇い止めまでの5ステップ

有期雇用契約を円満に終了するためには、次の5つのポイントを押さえることが大事です。

1)事実確認

まずは、以下の4点について事実確認を行います。

2)証拠の収集と確認

次に、以下に挙げる6つの資料を集めます。

3)雇い止め(実行)

会社は、有期雇用契約の期間が満了する1ヶ月前までに、従業員に対して契約を更新しない旨を伝える必要があります。従業員がこれを不服とする場合には、会社として理由を説明しなければなりません。

このとき、必要な場合には退職金の上乗せや解決金を提示するなど、従業員の納得・合意が得られるように努めます。もしも交渉が決裂してしまったら、期間満了後は出社しないように伝えて雇い止めを実行します。

4)示談交渉

会社が雇い止めを実行した後、従業員が異議を申し立てるケースがあります。この場合も、退職金の上乗せや解決金を提示して、合意による契約終了を目指します。

5)労働審判・訴訟

示談交渉が不調に終わった場合、従業員に労働審判を起こされることも考えられます。このとき、会社としては従業員の法的な請求に対して適切な対応を取る必要があります。

雇い止めトラブル予防法

雇い止めトラブルを予防するためには、有期雇用契約の中に不更新条項を盛り込むことが重要です。ただし、いくら契約書の中に「今回の契約が最後である。次回の契約期間満了時は契約の更新をしない」との文言があっても、従業員の合意がない状態では雇い止めが認められないケースも少なくありません。

従業員の納得・合意を得るために必要なのは、会社としての誠実な対応です。期間満了時に一定の金額を支払う、期間満了時における年休を買い上げるなど、従業員にとってメリットのある条件を提示することで円満な解決につなげましょう。

雇い止めトラブルを防ぐため、労使間の信頼関係を構築しよう!
 

雇用契約の中で「労働期間」を定めているからといって、必ずしも期間満了をもって契約を終了できるわけではありません。法改正により労働者保護のルールがいっそう強化されており、会社として判断を誤ると訴訟などに発展する恐れもあります。契約更新の拒絶を従業員が「雇い止め」と受け取ってしまうことがないよう、日頃から十分な配慮が必要です。

WRITER

大場由佳

取材対象者の想いを伝えるWebライター

証券会社勤務を経て、印刷会社にてグラフィックデザインを学ぶ。キャリアップを目指した広告代理店では、企画・デザイン・ライティング・ディレクション業務などを幅広く手がける。出産を機にフリーライターとして活動をスタート。医療・グルメ・女性・スクール系など幅広いジャンルのWebサイトで記事を執筆し店舗取材を多数経験。取材時に寄せられる労務問題に対応する中で知識を深め、読みやすく・分かりやすい文章で発信中。