パワハラ防止法とは? パワハラの定義や予防策について詳しく解説
2022-10-25
大後 ひろ子
C-OLING代表 ブランディングコンサルタント
労務リスクマネジメント
メディアなどでも取り上げられることが多いハラスメント行為は、「○○ハラ」として次々新しい言葉が登場しています。中でも「パワハラ」は精神的に追い込まれて心の病気を発症したり、自殺につながったりするケースが少なくありません。こうした背景から政府は「パワハラ防止法」の施行を決めましたが、その内容はご存知でしょうか? こちらの記事ではパワハラ防止法が会社に求めていること、運用にあたって必要なことをわかりやすく解説します。従業員間のトラブルを未然に防ぐためにも、注意すべきポイントをしっかり確認しましょう。
そもそも、ハラスメントとは?
ハラスメントは英語で書くと「Harassment」、嫌がらせや迷惑行為を意味する言葉です。本人が意識している・していないにかかわらず、特定(または不特定多数)の人物に不快な思いをさせたり、苦痛を与えたりする行為をハラスメントといいます。
いじめ・嫌がらせ行為は対象者の人格を否定するものであり、人権侵害にあたります。ハラスメントの被害者となった従業員は仕事に対するモチベーションが低下するとともに、メンタルの不調を訴える恐れがあります。
裁判に発展する事態になったり、従業員が自殺したりするリスクを回避するために、会社としてはしっかりとした対策を取る必要があります。特に「パワハラ」については2020年4月から順次、会社として防止策に取り組むことが義務となっています。
パワハラの具体例
パワハラは、パワー(力)によるハラスメントです。一般に会社の上司や先輩などが立場の優位性を背景に、他者に対して精神的・肉体的な苦痛を与える行為を指します。時には、何らかの弱みを握った部下から上司へのパワハラ、本来は同じ立場にある同僚間にもパワハラ行為がみられる場合があります。
- ほかの従業員の前で対象者を大きな声で怒鳴りつける
- ノルマ未達成などを理由に対象者に肉体的な苦痛を負わせる
- 対象者に仕事を与えない、会議に参加させない
- 対象者の家族に対して侮辱的な発言をする など
上記のようなケースはパワハラ行為として認定される恐れがあります。
パワハラ防止法とは
パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)は、職場におけるパワーハラスメントを防止するため、会社として必要な措置を講じることを求める法律です。2020年6月よりスタートし、2022年4月からは企業規模にかかわらずすべての会社が対象となります。
パワハラ防止法の施行によって会社に義務付けられるのは、以下の3つを中心にした内容です。
1)パワハラ防止策の明確化・周知徹底
会社としてまず行うべきは、パワハラに関する研修会を開催することです。「パワハラにあたる行為にはどのようなものがあるか」などを社内で共有し、自社においてパワハラを禁止する旨を広く周知します。また「パワハラの加害者に対しては厳正に対処する」などの内容を就業規則に記載します。
2)相談窓口の設置
従業員がパワハラ被害にあった際に安心して相談できる「相談窓口」を設置し、社内に周知します。また、窓口業務の担当者が適切な対応を取れるよう、教育・準備しておくことも大事です。
3)パワハラ被害にあった従業員のケア・再発防止
社内でパワハラ行為が発生した際は、その内容を正しく把握することが大切です。丁寧に事実確認を行ったうえで、被害を受けた従業員に対する措置、加害者となった従業員に対する措置を講じ、再発防止に向けた対策を取ります。
パワハラ防止法に罰則規定はある?
いよいよすべての会社に対策が求められるようになったパワハラ防止法ですが、今のところ罰則規定などは用意されていません。一方で政府は「厚生労働大臣が必要と判断すれば、助言・指導・勧告を行う」ことを可能としており、さらに勧告に従わないケースではその内容を公にする場合があるとしています。
つまり、パワハラ被害にあった従業員のための「相談窓口」の設置や運用を怠ったり、パワハラ被害者(加害者)となった従業員を解雇したりするなどの不当な扱いがあった場合には、指導や勧告を受ける恐れがあります。
また、会社がパワハラ行為を黙認している場合には「職場環境配慮義務違反」と認定される可能性もあります。会社は従業員との間に労働契約を交わした段階で、従業員に適切な労働環境を提供する義務があります。これは事業所の規模にかかわらず、すべての会社が負うべき責任といえます。
パワハラ防止法・3つのポイント
罰則規定がないとはいえ、会社としてパワハラ行為を見過ごすことは許されません。ここでは、実際にどのような点に注意すればよいか確認しておきましょう。
1)相談窓口の中立性
パワハラには加害者と被害者が存在します。一般に、相談窓口を利用するのは被害者ということになりますが、窓口担当者は一方に肩入れするのではなく、中立な立場を維持することが大切です。被害者の声に耳を傾けたら、加害者とみられる従業員からも同じように話を聞かなければなりません。
また、被害者と加害者の周りにいる「第三者」の意見を聞いてみることも大事です。さまざまな意見を分析することにより、パワハラを認定できることもあれば、被害者の思い込みだったと判明することもあるでしょう。
もしも実際にパワハラが発生していた場合には、加害者側の従業員に「何が問題だったのか」を伝え、改善を促します。このとき、被害者側の従業員やほかの従業員に十分配慮しながら進めることが大事です。
2)会社の姿勢を明確化
新しい制度を導入しようとするとき、大切になるのが経営者(会社)の確固たる姿勢です。「パワハラは絶対に許されない」という考えを周知徹底することにより、やがて社内の雰囲気にも変化がみられるでしょう。
とくにパワハラは、職場内での優位性が要因となって発生する「嫌がらせ行為」です。まずは経営陣をはじめとした上層部が率先して取り組むことにより、パワハラ防止の考えが会社全体に広がっていきます。
3)専門家に協力を仰ぐ
パワハラ防止法はスタートからまだ間もないことから、裁判において何がパワハラに認定され・どんな判決が下りるかといった内容が不透明です。もしも就業規則にパワハラ防止法に関する内容を盛り込む場合には、事前に弁護士など法律の専門家に相談するのが間違いないでしょう。パワハラに関する社内研修会などを専門家に依頼すれば、従業員の意識改革にもつながります。
「パワハラ」に対する理解を深め、会社全体で予防に取り組もう!
パワハラ防止法の施行に伴い、社内で研修会や勉強会を開催する会社も少なくないでしょう。従業員に対する教育は1度きりではなく、定期的に知識を確認したりアップデートしたりする場を設けることが大事です。社内にパワハラの被害者・加害者を出さないことを目標に、会社として積極的に取り組みましょう。