福利厚生とは何か?企業に求められる対応をわかりやすく解説
2022-09-07
大後 ひろ子
C-OLING代表 ブランディングコンサルタント
労務福利厚生
人手不足が叫ばれるなか、多くの企業で課題となっているのは、質の高い人材の確保です。競合他社と差別化を図り、採用をうまく進めようと、多くの企業が福利厚生に力を入れています。とはいえ、福利厚生の内容は非常に幅広いことから、「何から手をつけたらいいの?」と不安になる場面も多いのではないでしょうか。こちらの記事では、福利厚生制度の内容や導入時のポイントなどをわかりやすく解説しています。制度の全体像を把握して、今よりもっと魅力的な職場づくりを目指しましょう。
福利厚生とは、どんな制度?
福利厚生とは、企業が従業員に提供する報酬の一つです。報酬というと「給与」や「賞与」をイメージするかもしれません。しかし、従業員のために健康保険料の半額を負担したり、従業員が結婚した際にお祝い金を出したりするのも、立派な福利厚生です。
それでは、どんな人が「従業員」とみなされるのか。制度の目的とあわせて見ていきましょう。
福利厚生の目的とは
現代の日本企業における福利厚生は、従業員に向けたサービスと言えます。企業にとっては福利厚生を充実させることで優秀な人材を確保したり、会社愛を育んで従業員の定着率をアップさせたりすることが大きな目的となっています。
新卒採用や中途採用の際に自社を選んでもらえるよう、最近は各社が福利厚生の充実に力を入れています。他社との差別化、働きやすい職場づくりといった意味からも、福利厚生は企業にとって重要なツールと言えるでしょう。
福利厚生の対象となる人
福利厚生の恩恵を受けられるのは、基本的に企業で働く全ての人です。2020年4月より順次施行された働き方改革関連法案により、事業者には正規労働者・非正規労働者にかかわらず、同じように福利厚生を提供することが義務付けられました。
これまで多くの企業では、福利厚生を利用できるのは「正社員のみ」というのが一般的でした。しかし、働き方改革に伴って改正された「パートタイム・有期雇用労働法」「労働者派遣法」では、同一労働・同一賃金に加えて、福利厚生などについても同一の待遇を求めています。
福利厚生が重視される3つの理由
福利厚生は従業員に向けたサービスであると同時に、企業にとって大きな武器となります。近年、福利厚生に注目が集まる裏側には、大きく3つの理由があります。
1)従業員の経済的支援
従業員にとって最も身近でありがたい経済的支援の一つに、「交通費の支給」が挙げられます。自宅から会社までの往復の交通費、家賃負担やローン返済などは、生活費の多くを占める出費です。従業員の経済的負担を軽減する福利厚生はニーズが高く、多くの企業で導入されています。
2)組織力の強化
社員旅行や懇親会、社内サークルの活動費などに補助制度を設けることにより、強いチームづくりを目指します。従業員同士のコミュニケーションが円滑でないと、思わぬトラブルや無駄が発生しがちです。しかし、さまざまな活動を通してコミュニケーションが活発化すれば、自然と業務効率が上がり、業績アップも期待できます。
3)優秀な人材の確保
新卒採用や中途採用の際、他社と比較されやすいのが福利厚生の内容です。職種や給与が変わらないなら、少しでも快適に働ける会社に入りたいと考えるのは、求職者に共通した思いです。競合他社に先駆けて優秀な人材を採用するためにも、魅力的な福利厚生を用意したいものです。
【要整備】6つの法定福利厚生をチェック!
福利厚生には、法律で義務付けられている「法定福利厚生」と企業が任意で導入する「法定外福利厚生」の2種類あります。ここでは、企業が負担することが求められている「法定福利厚生」の内容を解説します。
1)健康保険
健康保険は、従業員と従業員の家族のための保険制度です。保険料は、会社と従業員が半分ずつ支払うことになっています。保険料を納めることにより、従業員(または家族)がケガをしたり、病気になったりしたときに医療費の一部が国(自治体)の負担になります。
2)介護保険
介護保険は、要介護認定・要支援認定を受けた際に介護サービスが受けられる保険制度です。保険料は、会社と従業員が半分ずつ支払うことになっています。40歳になった従業員は必ず加入する必要があり、(1)の健康保険に上乗せする形で給与から差し引かれます。
3)厚生年金保険
厚生年金保険は、従業員の老後の生活や死亡に備える保険制度です。保険料は、会社と従業員が半分ずつ支払うことになっています。正規労働者はもちろん、パート・アルバイトなどの非正規雇用労働者も一定の条件(労働時間・労働日数が正規労働者の4分の3以上など)を満たすと加入が義務付けられます。
4)子ども・子育て拠出金
子ども・子育て拠出金は、子どもの有無や既婚・未婚にかかわらず、厚生年金保険に加入する全ての従業員を対象とした税金です。納税額は従業員の報酬をもとに算出され、会社が全額負担することになっています。財源は、児童手当や子育て支援事業などに使われます。
5)雇用保険
雇用保険は、労働者が職を失った場合に必要な給付を行い、安定した生活と再就職をサポートする保険制度です。保険料は、会社と従業員がそれぞれ負担します。正規労働者は必ず雇用保険に加入する義務があり、非正規雇用労働者は一定の条件(所定労働時間10時間以上・勤続31日以上など)を満たすと加入対象となります。
6)労災保険
労災保険は、従業員が勤務中や通勤中にケガをしたり、病気になったりしたときに必要な補償を受けられる保険制度です。保険料は、会社が全額負担します。労働災害の内容は多岐にわたり、正社員・パート・アルバイトなど全ての労働者が対象となります。
福利厚生の導入フロー
福利厚生を導入する際は、従業員のニーズを十分に把握するのはもちろん、定期的に内容を見直すことで、利用率の維持・増大に努める必要があります。
1)目的の明確化
予算の範囲内で施策を導入するには「何のための施策か」を明確することが大事です。目的が定まらないままスタートすると、コストがかさむ恐れがありますので注意しましょう。
2)従業員のニーズをヒアリング
新たな施策を導入する際には、従業員の意見に耳を傾けることが大事です。事前にアンケートを取るなどしてニーズを把握し、多様な価値観に応える福利厚生制度を実現しましょう。
3)従業員へのリリース
運用をスタートする際には、福利厚生制度の目的・内容・利用方法などの詳細を全従業員に周知します。ヌケやモレがあると利用率が上がらなかったり、導入効果が薄れたりするので注意が必要です。
4)定期的なチェックと制度の見直し
導入後は従業員の利用状況を定期的に確認し、実際に利用した人の声を聞くなどして制度のブラッシュアップに努めましょう。福利厚生制度は導入してからがスタートです。よりよい制度になるよう、頑張ってください。
福利厚生を充実させて、働きがいのある会社を目指そう!
一口に「福利厚生」と言っても、その内容はさまざまです。今回は「法定福利厚生」を中心に解説しましたが、これらの内容は全ての企業に求められる最低限の制度です。しっかりとした基礎固めができたらさらに内容を充実させ、自社ならではの福利厚生制度をつくっていきましょう。