退職金の相場を知ろう―企業規模・業種・勤続年数による違いは?
2022-10-26
大後 ひろ子
C-OLING代表 ブランディングコンサルタント
労務福利厚生
かつて「日本型雇用」と呼ばれた終身雇用制度が崩れつつある現在、老後の蓄えとされていた退職金に対する考え方にも変化がみられるようです。かつては定年まで勤め上げた従業員に対する「お疲れさま」の意味も込められていた退職金。まだもらったことがない人、自分がどれくらいもらえるか知らないという人も多いのではないでしょうか? こちらの記事では、退職金にまつわる基本的な知識や業種や勤続年数によって異なる退職金の平均相場などを解説します。果たしてあなたは退職金をもらえるのかどうか、ぜひチェックしてみてください。
そもそも、退職金とは?
退職金は従業員が会社を辞める際に支払われるものですが、支給されるかどうかは会社ごとに異なります。退職金制度が導入されている場合は、就業規則に明記されているはずですから確認してください。
退職金制度
退職金制度は労働基準法などに規定があるわけではなく、それぞれの会社が任意に導入するものです。もしも退職金を支給する場合は就業規則にその内容を明記し、従業員に周知させる必要があります。
就業規則に記載する内容は以下のとおりです。
- 勤続何年目から退職金が支給されるか(支給の条件)
- 勤続年数に対してどのくらいの額を支給するか(支給額の算出方法)
- 退職金をどのように支給するか(退職金の受け取り方法) など
退職金の支給額は勤続年数が長くなるにつれて増える傾向にあり、定年退職時がもっとも多くなるのが一般的です。一方で、勤続年数が規定の年数に満たない場合は支給されないこともあります。
定年前に退職する場合は、自己都合か・会社都合かによって支給額が変わり、後者のほうが高い金額になるのが一般的です。また、従業員本人の重大な過失(犯罪)などにより懲戒解雇となった場合、退職金の支給は期待できません。
退職金の受け取り方法
退職金を受け取る方法は、会社の規定によって異なります。一般的な受け取り方としては、一時金と年金のほか、両者を併用して受け取る3つの方法があります。
1)一時金
従業員が退職するのにあわせて、退職金が一括で支払われます。あらかじめ支給額が確定しているため従業員にもわかりやすく、支給に際して会社の経営状況が影響を及ぼすこともありません。
2)年金
会社が定めた退職金の総額を分割し、毎年一定の金額を「年金」として受け取ります。
3)一時金・年金の併用
最初に退職金の一部を一時金として受け取り、残りを年金として受け取ります。一時金と年金の割合は、会社が定める規定により異なります。
退職金の相場
退職金の金額は会社の規模・勤続年数・職種のほか、対象となる従業員の学歴・退職理由などにより異なります。
大企業
資本金5億円以上・従業員1,000人以上の会社を対象に厚生労働省が行った調査「賃金事情等総合調査(令和元年)」によると、男性の平均退職金額は以下のとおりです。
- 最終学歴:大学卒業 2,289万5,000円
- 最終学歴:高校卒業 1,858万9,000円
※大学卒業は22歳/高校卒業は18歳で入社。定年退職まで勤務した場合の平均退職金額。
中小企業
「中小企業」の基準は業種によって異なりますが、従業員数が300人以下・資本金3億円以下とするのが一般的です。東京都産業労働局が「中小企業の賃金・退職金事情(令和2年度)」で公表した内容は以下のとおりです。
- 最終学歴:大学卒業 1,118万9,000円
- 最終学歴:高校卒業 1,031万4,000円
※大学・高校ともに卒業後すぐに入社。定年退職まで勤務した場合のモデル退職金。
業種別
東京都産東京都産業労働局による「中小企業の賃金・退職金事情(令和2年度)」では、退職金の平均相場を業種別でも記載しています。ここでは、大卒の平均退職金額トップ5をご紹介します。
第1位・金融・保険業 1,725万5,000円
第2位・不動産・賃貸業 1,353万7,000円
第4位・建設業 1,313万8,000円
第5位・情報通信業 1,154万5,000円
勤続年数別
退職金には、会社から従業員に対する感謝の気持ちも込められています。そのため、勤続年数が長くなるにつれ、退職金の金額も増える傾向があります。ここでは、大卒で大企業に就職した場合の退職金(モデルケース)の推移を紹介します。
(退職の理由) 会社都合 自己都合
(勤続年数) 3年 70万円 35万円
5年 125万円 65万円
10年 315万円 185万円
15年 585万円 405万円
20年 965万円 800万円
25年 1,425万円 1,285万円
30年 2,015万円 1,895万円
上記のように、退職時に受け取る退職金は自己都合による場合のほうが少なくなるのが一般的です。また、退職金制度を導入している場合でも「勤続3年未満の場合は支給しない」などと規定している会社が多いようです。
退職金の仕組み
退職金の支給は会社の義務ではないため、受け取れるかどうかを知りたいときは就業規則を確認する必要があります。もしも退職金が支給される場合は、受け取り方法を(1)一時金(2)年金(3)1と2の併用 から選べる可能性があります。
退職金を受け取れるのはいつ?
退職金を受け取るタイミングは、会社が退職金の原資をどのように管理しているかによって異なります。自社管理の場合はスムーズな支給を期待できますが、金融機関で資金を運用している場合などは時間がかかるケースもあります。
労働基準法第23条には「権利者(退職者)から請求を受けたら7日以内に賃金等を支払わなければならない」と明記されています。もしも支給が遅れる場合には、交渉履歴などを残しておくとよいでしょう。
退職金に税金はかかる?
退職金を一時金として受け取る場合は「退職所得」扱いとなり、所得税・復興特別所得税・住民税を支払わなければなりません。この場合、退職所得控除を活用することによって税金の負担を軽減することができます。また、会社を介して「退職所得の受給に関する申告書(退職所得申告書)」を提出すると税金が源泉徴収されるので、自分で確定申告をする必要がなくなります。
一方で、退職金を年金形式で受け取る場合は「公的年金等控除」が適用されます。この場合、退職金は「公的年金等に係る雑所得」となり、公的年金と合算して税額を算出します。
退職金は生活を支える大事な資金。受け取り方法は賢く選ぼう!
退職金制度を導入している会社に勤務している場合は、勤続年数などに応じて退職金が支給されます。退職理由によって金額に差が出てくるものの、一定の金額を受け取れることに違いはありません。退職金を見込んで住宅ローンを組む人も多いようですが、受け取り方によっては支払う税金の額が変わってきますから注意が必要です。退社時の年齢や生活環境に合わせて、自分にあった方法を選択するとよいでしょう。