過労死ラインとは何か? 長時間労働がもたらす健康被害などを解説

2022-10-27

大後 ひろ子

C-OLING代表 ブランディングコンサルタント

労務健康管理

長時間にわたる労働を毎日続けていると、肉体的な疲労が蓄積するだけでなく、精神面にも影響を及ぼすことがわかっています。過度の疲労(過労)は体や心の病気につながり、劣悪な環境から逃れようと自ら命を絶つ人も少なくありません。こうした病気や自殺が「労災」として認定されるかどうか――その判断基準となる「過労死ライン」をご存知ですか? こちらの記事では「過労死ライン」の基本的な知識や長時間労働が心と体にどのような影響をもたらすかについて、わかりやすく解説します。従業員の健康を守るためにも、ぜひ内容を確認してみてください。

「過労死ライン」とは何か?

過労死ラインとは、長時間に及ぶ労働により病気や死亡に至るリスクが高まる時間外労働(合計時間)ことです。過労死ラインは厚生労働省が定める基準であり、従業員が脳や心臓の病気を発症した場合に労働災害(労災)として認定されるかどうかの基準となる「脳・心臓疾患の認定基準」を指します。

脳卒中や心筋梗塞などさまざまな病気の要因としては、毎日の食生活や生活習慣、労働環境などが考えられます。そうした中で「労災」と認定されるためには、働き過ぎが原因であると認められる一定の基準が必要であり、この基準が「過労死ライン」です。

過労死ラインの基準

従業員が病気・死亡・自殺に至った原因が長時間労働にあると認められる基準(過労死ライン)は

上記のような場合には、業務内容と病気の発症の関係性が強く疑われ、労災認定される可能性が高くなります。もしもこうした基準が設定されていなければ、過酷な労働環境を証明することができず、会社側の責任を追及することは難しいでしょう。過労死ラインは長時間労働を是正し、従業員の心と体を守るための基準であるともいえます。

法律が定める労働時間

労働基準法で決められた労働時間の上限は、原則として「1日8時間」「1週間40時間」です。こうした法律上の上限時間を「法定労働時間」といいます。

しかし、労働基準法に記載されているのは1日単位・1週間単位の労働時間です。この数字をもとに1ヶ月あたりの労働時間を計算(40時間×1ヶ月の日数÷7日)すると、177.1時間(1ヶ月:31日)または171.4時間(1ヶ月:30日)となります。毎年2月は1ヶ月の日数が少なくなりますから、労働時間の上限はさらに低い数字になります。

36協定による労働時間

本来であれば、法定労働時間を超えて労働した場合は労働基準法違反となります。しかし、労使間で協定(36協定)を締結・届出を行うことにより、一定時間内の時間外労働が認められるようになります。

36協定(サブロクキョウテイ)は、労働基準法第36条に規定された労使間の協定のことをいいます。従業員に対して法定労働時間を超えた時間外労働・休日労働などを命ずる場合は、会社と従業員の間で36協定を結び、所管の労働基準監督署に届け出る必要があります。

とはいえ、36協定を締結したからといって、時間外労働に関する制限がなくなるわけではありません。36協定で定めることができる時間外労働の上限は、原則として「1ヶ月:45時間」「1年間:360時間」までです。

季節によって業務量が大きく異なる場合には、36協定に「特別条項」を追加することが可能です。しかし、この場合にも以下の内容は順守する必要があります。

長時間労働が体に及ぼす影響

労働基準法で定められている法定労働時間は、1ヶ月(30日)おおよそ170時間です。労使間で36協定を結んだ場合、原則として1ヶ月45時間までの時間外労働が認められます。つまり、36協定が存在する会社では、月に215時間(170時間+45時間)までは従業員を働かせてよいことになります。

しかし、従業員を長時間にわたって働かせることは

などにつながり、精神的・身体的な病気を引き起こしかねません。また、長時間労働が続いて睡眠不足に陥ると、通勤中や業務中に事故を起こす可能性が高くなります。

心臓や脳血管にまつわる病気

長時間労働によって引き起こされる病気の一つに、心筋梗塞をはじめとした虚血性心疾患があります。また、これまで過労死と認定されたケースでは、くも膜下出血・脳梗塞・脳卒中といった脳の病気を発症した例があります。

こんな症状に注意!

【心臓の病気】・動悸がする ・胸が焼けるように感じる ・胸が圧迫されている感じがする
【脳血管の病気】・めまいがする ・片方の手足がしびれる ・片目がぼやけて見える気がする

自殺・うつ病

長時間労働によるストレスが引き金となり、自殺を選ぶ人も少なくありません。また、過度のストレスから精神的に不安定になってうつ病を発症したり、うつ病の悪化が自殺に発展したりするケースもあります。

こんな症状に注意!

従業員の健康を守るため、過労死ラインを順守しよう!

 

過労死ラインではひと月の労働時間を「発症前の1ヶ月:100時間」「発症前2~6ヶ月平均:80時間」などに定めています。一方、最近ではこれらの数字をさらに削減するべきとの議論もなされています。上記の数字はあくまでも最低限のラインであり、会社として絶対に守るべきルールです。ここからさらに一歩踏み込んで時間外労働の上限を60時間とするなど、従業員に優しい職場環境を目指したいものです。
 

WRITER

大場由佳

取材対象者の想いを伝えるWebライター

証券会社勤務を経て、印刷会社にてグラフィックデザインを学ぶ。キャリアップを目指した広告代理店では、企画・デザイン・ライティング・ディレクション業務などを幅広く手がける。出産を機にフリーライターとして活動をスタート。医療・グルメ・女性・スクール系など幅広いジャンルのWebサイトで記事を執筆し店舗取材を多数経験。取材時に寄せられる労務問題に対応する中で知識を深め、読みやすく・分かりやすい文章で発信中。