固定残業代(みなし残業)とは? 導入するメリットや注意点を解説
2022-10-19
大後 ひろ子
C-OLING代表 ブランディングコンサルタント
労務給与・賃金
1日8時間・1週間40時間の法定労働時間を超えて仕事をした場合、残業代として基本給の1.25倍の割増金額が支払われます。忙しくて残業が続いた月は思わぬ金額を手にしたり、残業代が少なくて節約に励む月があったり…そんな経験ありませんか? こうした給与額の変動を少なくしてくれるのが、毎月一定の時間を残業したとみなす「固定残業代」です。こちらの記事では、固定残業代(みなし残業)の基本的な知識や導入時の注意点などをわかりやすく解説します。適切に運用すればメリットの多い制度ですから、あなたの会社でも導入を検討してみてはいかがでしょうか?
固定残業代とは?
固定残業代とは、残業のある・なしにかかわらず毎月一定の金額が支払われる手当のことを指します。会社はあらかじめ決めておいた金額(固定残業代)を基本給などにプラスして支払います。
一般に、従業員が時間外労働をした場合は、その時間を集計して割増賃金を支払わなければなりません。しかし、固定残業代を導入すれば残業手当を固定給とすることができ、会社は毎月同じ金額を支払えばよいことになります。
固定残業代を導入するには「賃金」と「固定残業代」を明確に区別するなどの条件を満たす必要があります。また、就業規則の変更や従業員への周知などの環境整備も大切になります。
固定残業代を導入するための3つの条件
毎月一定の金額(固定残業代)を残業代とみなして支払おうとする場合は、以下の3つの条件をすべて満たす必要があります。
- 賃金(基本給や各種手当)と固定残業代が明確に区別されている
- 固定残業代には何時間分の残業時間が含まれるのかを明確に定める
- (2)で定めた時間を超えて時間外労働を行った場合は別途割増料金を加算して支給する
就業規則の変更
固定残業代を導入するにあたっては、就業規則の賃金規定を変更する必要があります。就業規則には「固定残業代の金額」や「固定時残業代に含む時間外労働時間数」など具体的な内容は記載しなくても問題ありません。ただし、事前に十分な説明を行うなど、従業員が制度を正しく理解できるように努めましょう。
一方で、従業員との雇用契約書や給与明細書などについては、固定残業代の内容をより詳細に記載する必要があります。賃金(基本給や各種手当)と固定残業代を明確に分けて記載することにより、従業員が「残業代の支払いが正しく行われているか」を確認できるようにします。
固定残業代を導入するメリット
固定残業代では、残業をしても・しなくても毎月一定の金額が支払われることになります。固定残業代の導入は、会社にも従業員にもさまざまなメリットをもたらします。
会社側のメリット
固定残業代は、毎月一定の金額(固定残業代)を実際の残業代とみなして支払うものです。従業員ごとに時間外労働分の割増賃金を計算する必要がありませんから、給与計算にかかる手間や時間を大幅に削減できます。また、残業代が急増することがなくなり、年間の人件費を管理しやすくなります。
ただし、固定残業代を適切に運用するためにはさまざまなルールを順守する必要があります。思わぬトラブルを避けるためにも、必要な場合には社会保険労務士など専門家に相談するとよいでしょう。
従業員側のメリット
従業員にとってのメリットは、何よりも安定した収入を維持できることです。固定残業代によって毎月一定の金額を受け取ることができ、さらに固定残業代の枠を超えて時間外労働をした月は残業代の上乗せも約束されています。
固定残業代の導入は、従業員間の不公平感の解消にも役立ちます。従来のシステムでは(1)終業時間内に効率的に仕事を終える従業員と(2)時間外労働をしてようやく仕事を終える従業員がいた場合に、給与額の面で(2)の従業員が有利になる傾向がありました。しかし、固定残業代によりすべての従業員が同じ条件のもとで働くようになれば、ほかの従業員に対する不平や不満もなくなるでしょう。
固定残業代を適切に運用するための3つのポイント
固定残業代は、ただ単に毎月同じ金額を支払う制度ではありません。固定残業代に定めた残業時間を超えた分については残業代を上乗せして支払うなど適切に運用することが大事です。
1)固定残業代の時間と金額を明確にする
固定残業代では、賃金と固定残業代を明確に分けなければなりません。たとえば、求人の募集をする際には以下のようになります。
誤)月給25万円(みなし残業代を20時間含む)
正)月給25万円(みなし残業代20時間・5万円を含む)
2)超過分の残業代を正しく支払う
従業員と交わした雇用契約書の給与の項目に「残業手当5万円(月20時間分)を含む」と書かれている場合、20時間(固定残業代に定めた時間)を超えて働いた時間の残業代を上乗せして支払う必要があります。「固定残業代にしているから追加の残業代は必要ない」ということではありません。
3)最低賃金を順守する
残業代(時間外労働)の計算式は基本給×1.25です。最低賃金を1,000円として計算すると時給1,250円になります。もしも雇用契約書の規定が「残業手当3万円(月40時間分)」となっていた場合は実質的な残業代が時給750円となり違法です。
固定残業代を導入した場合も、時間外労働を適切に管理しよう!
固定残業代は労使双方にメリットをもたらす制度ですが、成否のカギを握るのは正しく運用できるかどうかです。とくに、規定時間以上の時間外労働をしたにもかかわらず追加の残業代が支払われない場合は違法とみなされます。ブラック企業のレッテルを貼られる事態や、従業員との労使トラブルを避けるためにも、守るべきルールをしっかり確認してください。