「モラハラ」とは何か?モラルハラスメントの意味や予防法を解説
2022-09-29
大後 ひろ子
C-OLING代表 ブランディングコンサルタント
労務リスクマネジメント
何気なく発した言葉に「ハラスメント」を指摘されて驚いた……そんな経験ありませんか? 他者に対するいじめ・嫌がらせを意味するハラスメントは、加害者側の問題意識が低いために事態が複雑化してしまうという側面があります。こちらの記事では、道徳・倫理に反するハラスメント(モラハラ)について、その内容や具体例、予防法などを解説します。パワハラとの違いも確認しながら、予想されるリスクを回避しましょう。
モラハラ(モラルハラスメント)って何?
モラハラとは、言葉や態度などによる精神的な嫌がらせであり、暴力を伴わない「いじめ」とも言えます。相手の存在を無視したり、相手の人格を否定したりする言動がこれにあたります。
モラハラは家庭内でも起こり得ることですが、ここでは職場内のモラハラに絞って見ていきます。
職場におけるモラハラとは
モラル(moral)を日本語に訳すと道徳・倫理、ハラスメント(harassment)は嫌がらせを意味します。つまり、モラルハラスメントとは、倫理や道徳に反した嫌がらせということになります。モラハラは物理的な暴力ではなく、言葉や態度などによる精神的な嫌がらせであることが特徴です。また多くの場合、モラハラの加害者はモラハラをしている意識が低いようです。
モラハラの提唱者であるフランス人精神科医・イルゴイエンヌ氏によると、職場内におけるモラハラの定義は以下の通りです。
- 他者の人格・人権や尊厳を傷つける言葉や態度が繰り返される
- 言葉や態度によって職場内の雰囲気を悪化させる
- 他者を精神的に追い詰め、仕事を辞めざるを得ない状況にする
職場において上司が部下を注意したり、叱責したりする場面は日常的な光景と言えるかもしれません。しかし、長時間・継続的な叱責、周りが恐怖を感じるほどの威圧的な態度は、モラハラに認定される恐れがあります。
パワハラとの違い
厚生労働省のガイドラインでは、パワハラ(パワーハラスメント)について下記のように定義しています。
優越的な関係を背景とした言動である
業務上必要かつ相当な範囲を超えている
労働者の就業環境が害されるものである
パワハラもモラハラも嫌がらせであるという点は同じです。両者が大きく異なるのは、暴力(嫌がらせ)の内容、加害者と被害者の関係性です。
パワハラの特徴
・上司が自分の立場を利用して部下に嫌がらせをする
・精神的な暴力に加えて肉体的な暴力を伴うことがある
モラハラの特徴
・上司・部下の立場にかかわらず行われる(同僚間でも発生する)
・精神的な暴力のみで肉体的な暴力はない
肉体的な暴力を受ければ、何らかの傷あとが残るでしょう。しかし、モラハラによる心の傷は見えません。モラハラは目に見えない暴力であるため、周りがそのことに気付きにくく、事態を複雑化させてしまう傾向があります。
モラハラの具体例と被害者への影響
モラハラに限らず、ハラスメント(嫌がらせ)の加害者は、自分が加害者であるとの意識が低いようです。まずは、どんな言動がモラハラにあたるのか、モラハラ被害者にどのような影響を与えてしまうのかを認識することが大事です。
全社員が加害者になり得るケース
以下のような行動・言動は、モラハラに認定される代表例です。これらは、社内での立場や年齢を問わず、誰もが加害者になる恐れがあります。
行動例
- 対象者を無視する
- 対象者を見下したような態度をとる
- 対象者の前でため息をつく
- 対象者にだけ情報を与えない
言動例
- 対象者の容姿を揶揄する
- 対象者の人格を否定するような発言をする
- 対象者の家族の悪口を言う・悪い噂を流す
上司や先輩社員が加害者になり得るケース
モラハラの中でも、上司や先輩などの立場を利用して行われる嫌がらせには以下のようなものがあります。
行動例
- 対象者のみに仕事を与えない
- ほかの社員が見ている前で対象者を叱責する
- 仕事を離れたプライベートタイムを侵害する
言動例
- 対象者が嫌がる愛称で呼ぶ
- 威圧的に大声を出す
モラハラ被害者への影響
たとえ殴られたり、蹴られたりしなくても、言葉の暴力を受けると誰もが精神的に追い詰められます。精神的な傷は心だけでなく、体のさまざまな場所に影響を及ぼします。代表的な例として以下のような病気が挙げられます。
- うつ病
- 適応障害
- PTSD(心的外傷後ストレス障害)
職場内のモラハラを予防するには?
モラハラの加害者は、周りの人を支配したいという気持ちがあったり、ナルシシズム(自己愛)が強かったりする傾向があります。反対に、自己肯定感が低く、他人に依存しがちな人がモラハラの被害を受けやすいようです。
2019年には改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)が成立し、2020年より順次施行がスタートしました。これにより、企業には職場におけるハラスメント対策強化が求められています。
企業に求められる対応
パワハラ防止法に関連して、厚生労働省では企業に対して以下の4点を提示しています。
- 従業員の相談に対応するための体制の整備
- 会社としてのハラスメント対策の明確化、内容の周知・啓蒙
- ハラスメント発生時の迅速・適切な対応
- 上記のほか、考えられるあらゆる措置を講ずること
もしもモラハラが起きてしまったら?
モラハラは、いつ・どんな場面で発生するかわかりません。そのため、会社としてハラスメント被害者のための相談窓口を用意しておくことが大事です。専門的な知識を備えた相談員を配置することにより、スムーズな問題解決が期待できます。
相談窓口に相談する
社内に相談窓口を開設している場合はそちらの相談窓口へ。相談窓口がない・問題が解決しないなどの場合は、所轄の労働局や労働基準監督署内の「総合労働相談コーナー」を活用します。
法的な手段を取る
あまりにも悪質なモラハラについては、名誉棄損や侮辱罪などでの損害賠償請求を検討します。こうしたケースでは、直接の加害者だけでなく、会社に対する損害賠償請求を受ける可能性があります。
職場内のモラハラを予防し、大切な社員を守ろう!
物理的な暴力を伴わないため、周りが気付きにくいのがモラハラです。たった1人で悩み、心と体の不調を抱え続ける人も少なくないでしょう。モラハラを解決に導く第一歩は、勇気をもって誰かに相談することです。あなたの会社で働く大切な社員のためにも、相談窓口の設置をはじめとした環境整備をお願いします。