キャリアアンカーとは? 8つの分類を知り、組織の成長を加速させる方法

2022-12-21

大後 ひろ子

C-OLING代表 ブランディングコンサルタント

組織人材育成・マネジメント

キャリアアンカーとは、自分らしく、パフォーマンスを最大限に発揮できるキャリアを選択するための個人の価値基準を、8つに分類したものです。個人・組織のキャリア構築において注目が集まっています。

今回の記事では、キャリアアンカーの8つの分類、キャリアアンカーを知ることの重要性、そして活用方法まで解説していきます。

キャリアアンカーとは?

キャリアアンカーとは、人生の錨(アンカー)として例えられ、個人がキャリアを選択していく上で譲れないと考える「仕事に対する価値観や欲求」を指します。

これはマサチューセッツ工科大学ビジネススクールの組織心理学者であるエドガー・H・シャイン博士によって提唱されたキャリア理論の概念です。また、この理論によるとキャリアアンカーは一度形成されると、環境や年齢の変化に左右されにくく、その人の生涯にわたってキャリアを選択する、重要なファクターになると言われています。

キャリアアンカーを知る必要性


近年、キャリアアンカーが注目される理由は、企業の採用活動において、今までは求職者が企業の求める人材像に合わせにいくことが主流でした。しかし、働き方の多様化や、企業の人材流動性が高まり、価値観の多様化によって、今までの方法では個人と企業とのミスマッチが起こるようになりました。

企業として優秀な人材を確保するためにも、個人が自分らしくパフォーマンスを発揮しながら成果を上げ続けるためにも、判断の軸となる「仕事に対する価値観や欲求」であるキャリアアンカーが重視されているのです。

個人にとっての必要性

今までは、高収入や高待遇が良い仕事の条件とされていましたが、現代ではそれ以外の条件を望む人も少なくありません。

「プライベートを充実させたいから、高収入はそれほど望まない」
「自分のペースでじっくり仕事がしたい」
「いつかは独立したい」

このような価値観の多様化の中で、企業が今までの好条件を提示しても、個人との行き違いが生じてしまいます。個人が自分らしく満足して働けるためにも、個人が自身のキャリアアンカーを理解しておくことが重要なのです。

組織にとっての必要性

企業がキャリアアンカーに注目する理由は、主に3つあります。

先に述べたように、個人と企業との行き違いを防ぎ、パフォーマンスを最大化する施策を行うことが重要です。例えば人事評価制度や、キャリアアンカーにあった人事配置を行うことでプロジェクトの成果を高めるだけでなく、組織内でのミスマッチを減らし、離職の防止にも繋がります。

キャリアアンカーの8つの分類 
 

 

エドガー・H・シャイン博士によって提唱された、キャリアアンカーの8つの分類について一つずつ解説していきます。

①管理能力(Managerial Competence)

プロジェクトの進行において専門的な能力は必要と認めながらも、組織を動かしたり、責任を引き受け成長するなどの「経営」に求められる能力の獲得を求めます。知見を広めるために、多くの職種を経験するべく異動に対しても前向きで、昇進に必要な資格取得にも積極的に取り組むタイプです。

②専門・職能別能力・Technical/Functional Competence)


特定分野のエキスパートを目指すタイプです。現場で活躍し続けることで、専門性や技術力が高まることに価値を感じています。また、専門家として能力を発揮することに、高い意欲を持っていて、課題に対して何度でも挑戦を続けます。一方、向いていない仕事を任されると、仕事への不満が募りやすい傾向があります。

③保障・安定(Security/Stability)

将来が安定して、先を見通せる環境で堅実にキャリアを築くことを好みます。その性格上、危機管理意識が高いので、リスクマネジメントの分野において力を発揮することができます。また、異動に対して大きなストレスを感じるため、転職や異動は好みません。

④起業家的創造性(Entrepreneurial Creativity)

新しいものを生み出す起業家タイプです。芸術家、発明家のように、新製品や新サービスの開発、新規事業の立ち上げといった新しいことへの関心、また既存事業の再建といった再構築にも関心があります。刺激的な仕事を好む傾向があり、困難な状況に立ち向かうことに対してモチベーションを見いだし、クリエイティブな仕事をすることができます。また、将来的に独立や起業を目指すケースが多く見られます。

⑤自律・独立(Autonomy/Independence)

組織のルールや規則に縛られず、自分のペースやスタイルで仕事を進めることに価値を感じます。自分が納得できる方法をマイペースに行える、研究職や技術職に多く見られる傾向があります。 裁量が大きい仕事、就労体系も在宅勤務やフレックスタイムのような、柔軟な働き方ができる企業で、能力を発揮しやすいタイプです。

⑥奉仕・社会貢献(Service/Dedication to a cause)

自身の仕事を通じて、世の中を良くしていくことを目指すタイプです。自分が出世したり、賞賛を浴びることより、人の役に立つことに価値を感じます。社会福祉や教育、医療・看護の仕事、監査部門や福利厚生部門、誰かのためになる商品開発や販売、といった誰かを支援する職種で能力を発揮します。

⑦チャレンジ(Pure Challenge)

困難に挑戦し、そこから受ける刺激に価値を感じるタイプです。そのためハードワークにも対応できる一方、ルーティンワークは好みません。異動や配置換えにも前向きなので企業の中で、さまざまなことにチャレンジすることができます。

⑧ワークライフバランス(Lifestyle)

●性格:仕事とプライベートの「ベストバランス」を重視する
●性格:仕事に熱心に取り組みながら育児休暇をきちんと取得し、復帰後のプランも考えたい
●価値観:ワークライフバランスを保てる在宅勤務や育休制度に魅力を感じる


仕事とプライベートのどちらかに偏らず、両立することを重視します。仕事に熱心に打ち込む一方、プライベートを犠牲にすることはないので、予定にない会社の飲み会や残業はきっぱりと断る事ができます。このタイプは、プライベートが充実すると仕事へのモチベーションも一緒に上がるので、在宅勤務やフレックス制度、育休制度制度などを整えた、働き方に対して柔軟な職場を好みます。

キャリアアンカーの活用方法 
 

 

企業におけるキャリアアンカーの活用方法について解説します。

社員の自己分析・キャリアマップに活用する

キャリアアンカーは、社員個人個人が、自分自身の特性を理解することに非常に役立ちます。自分にあった働き方やポジションを客観的に分析することで、自分にとっての最適な働き方を知ることができます。キャリアマップを作ることができ、上司との今後のキャリアに対する話もスムーズに行うことができるでしょう。

中堅以降の社員には育成研修の場でもキャリアアンカーについて繰り返し説明して、その重要性や理解を深める事が大切です。  特に部下を管理・育成していく立場になる社員がキャリアアンカーの重要性を理解する事で、個人が持つ価値観のギャップから起こるトラブルを回避したり、チーム内を円滑にする事ができます。  また、社員がそれぞれお互いのキャリアアンカーを確認・理解しあう事により、うまく役割分担ができるようになれば、組織運営もスムーズになり、より強固なチームとなります。  

研修への活用

キャリアアンカーは、研修への活用にも有効です。

新入社員
先に述べたように、キャリアアンカーを利用することで「自分のしたい仕事」に対して企業との行き違いを極力減らしながら、個人の将来のキャリアマップを描くことができます。

中堅社員
中堅社員にとって、これからのキャリアを考えるきっかけとしてキャリアアンカーを知ることは有効です。管理職に進むか、現場でスペシャリストになりたいのかといったプランを立てることができます。

マネジメント層
部下のキャリアアンカーを理解することで、組織のニーズと部下の働き方や価値観のギャップを埋めることにもつながります。また部下自身がキャリアアンカーを理解した上でミーティングを行うことで信頼関係の構築に繋がります。

人員配置に活用する

例えば専門・職能別能力タイプの人材を、管理能力を必要とする役職に置いてしまっては、本人のパフォーマンスを発揮できない人材配置になってしまいます。本人のキャリアアンカーに沿ったやりがいを見出せる提案ができれば、モチベーションが高く、成長速度が高い組織を構築し続けることができます。

まとめ

働き方への価値観が多様化・労働人口の不足が考えられる現代において、会社の成長を促進するための人材配置は急務です。人を動かす組織運営には、社員個人個人の価値観であるキャリアアンカーを理解し、人員配置をしていく事によって、組織を発展させていくことが重要です。

ぜひ、今回紹介したキャリアアンカーの8つのタイプを活用して、キャリア形成や組織の運営に役立ててください。
 

WRITER

大後 裕子

C-OLING代表

生活用品メーカーで10年間企画職に従事し、企画立ち上げから海外工場との商談、販促まで商品開発のゼロから一貫して行い、多くの商品をブランディングし、リリース。 8年販売され続けるヒット商品を始め、開発商品点数累計約1,200点、約1,700店舗へ導入。ブランディングを主軸とした、経営コンサルティング、 社内教育の3つの事業を通して、多くの人の生活に豊かさを提供ができる企業を社会に増やしたいと考えています。