インテグリティとは? 組織に必要な「誠実さ」の意味と時代背景について解説
2022-12-21
大後 ひろ子
C-OLING代表 ブランディングコンサルタント
組織組織開発
インテグリティとは、「誠実・高潔・完全な状態」を意味する言葉で、管理職に求められる重要な要素として注目を集めています。
情報速度が早まり、多様化する現代において、役員や管理職など企業経営に関わる人にはこのインテグリティの必要性が求められています。
今回の記事では、インテグリティの意味や注目されるようになった背景、そして企業でのインテグリティを持つ人材育成の方法について解説します
インテグリティとは?
ビジネスにおけるインテグリティとは、「誠実・高潔・完全な状態」を意味する言葉です。元々は、欧米企業で企業の経営方針を定める際や、社員が持つべき価値観として最も重要な資質、価値観として最優先されてきたものです。近年では日本でも評価されてきました。インテグリティは経営において、法令遵守に始まり、幅広く社会的責任の遂行と企業倫理の実践を目指すことが重要視されます。また社員にとっても、リーダーや管理職に求められる重要な資質「誠実さ」を示す表現としても用いられています。
インテグリティの語源
インテグリティ(Integrity)は完全性を意味する言葉です。元々はラテン語のIntegerに由来していて、「全体の(wholeness)」「完全な(completeness)」「健全性(purity)」などといった意味が含まれています。日本語では「誠実」「高潔」「完全な状態」といった概念を指しています。
経営・人事・組織におけるインテグリティの意味
「誠実」「高潔」「完全な状態」といった意味をもつインテグリティは、企業経営において法律や社会規範の遵守を意味します。また、顧客や取引先、株主、社員、といったステークホルダーや社会に対して、誠実な経営をするといった姿勢を指します。
企業経営にインテグリティが欠かせない理由
近年、企業経営におけるインテグリティが注目されるようになった背景には、「行き過ぎた成果主義に対する反省」があります。
企業経営においた成果は欠かせないものですが、これが生き過ぎた結果、企業の不祥事が頻繁に発生しました。企業規模により影響の大小はありますが、社会における不信感を払拭するために大きなダメージがありました。その後、CSRやコンプライアンスを重視した法令順守の経営に注目が集まりましたが、それだけでは、原因の根幹にある経営者の意識、企業風土・組織の習慣の改善まで難しいという認識も生まれたのです。
コンプライアンス経営との違い
インテグリティには、倫理観を持って企業活動を行うという意味があります。ここでコンプライアンス経営との違いについて理解を深めましょう。
コンプライアンス経営とは「法令を徹底的に順守し経営を行う」という意味があります。例えば、コンプライアンスに違反する例としては、パワハラやサービス残業などが挙げられます。 こういった事態に対して収束させるための新しいルールを設けるなどで対策を打ちます。インテグリティは問題がなぜ起きたのかを解明すると同時に、改善する方法に真摯に取り組む姿勢を指します。
簡単にまとめると、コンプライアンスが「悪いことを起こさないように意識する」である一方、インテグリティは「積極的に良い行いをするよう意識する」というものだと認識しておくと覚えやすいでしょう。
インテグリティ・マネジメントは理想の企業経営
「インテグリティ・マネジメント」とは、コンプライアンスを遵守するだけでなく、進んで社会的な責任を果たそうとします。企業や経営者が持つべき倫理基準については以下の項目が挙げられます。
コミュニケーションにおける正直さ
- 公平な処遇
- 特定の配慮
- 公平な競争
- 組織的責任
- 企業社会責任
- 法の遵守
社内ルールや規定を作る際には、これらの要素を盛り込んでいくことで、前向きな企業成長を目指すインテグリティ・マネジメントの実践につながります。
ドラッカーが注目したインテグリティ
オーストリア出身の経営思想家で、「経営学の父」とも呼ばれるピーター・ドラッカー氏は、「インテグリティこそが、リーダーやマネジメントを担う人材にとって決定的に重要な資質」として、経営における最も重要な資質は、才能や知識ではなくインテグリティであると強調しているのです。
著書『現代の経営(The Practice of Management)』の紹介
ピーター・ドラッカーの著書では「マネジメント」の方が有名かもしれませんが、「現代の経営」は、そのおよそ20年前の1954年に刊行された実践的マネジメントの書です。
原題は「ザ・プラクティス・オブ・マネジメント」。 本書には、時代が変わっても変わらない経営の真理や基本原則、そして、ドラッカーの経営哲学の原点が著されており、日本企業の事業展開において指針となった本でもあります。
インテグリティな人になるために
アメリカのクリスチャンであり自助作家のヘンリー・クラウド氏は、著書「リーダーの人間力 人徳を備えるための6つの資質」の中でインテグリティを備えた人には下記の6つの要素があると述べています。
インテグリティな人の6つの要素
- 信頼を確立する
- 現実と向き合う
- 成果をあげる
- 逆境を受けとめ、問題を解決する
- 成長・発展する
- 自己を超え、人生の意味を見つける
インテグリティを備えた人とは、「人格として統合されており、個々の部分がすべてうまく機能し、目指す効果を上げている」人物のことです。
また、この本の日本語のタイトルは「リーダーの」と限定されていますが、原題は「INTEGRITY」であるので、これらの項目はリーダーだけではなく、全ての人に当てはまるといって良いでしょう。
インテグリティを持たない人材
ピーター・ドラッカー氏は、インテグリティを持たない人材について、下記のような要素を述べています。
インテグリティを持たない人材
- 人の強みではなく、弱みに焦点を合わせる者
- 「冷笑家」
- 「何が正しいか」よりも「誰が正しいか」に関心をもつ者
- 人格よりも頭脳を重視する者
- 有能な部下を恐れる者
- 自らの仕事に高い基準を定めない者
インテグリティを持つ管理職
インテグリティを持つ管理職とは、部下に「ついていきたい!」「この人に認められたい!」と思わせる人間性の持ち主です。
インテグリティを持つ管理職の特徴
- 裏表のない行動が取れる
- 成果だけではなく、常に正しさを求める
- チャレンジする心を忘れない
- 一貫した言動を行う
- 社会的責任を果たそうとする
- 部下を信頼して仕事を任せられる
このように法令や規範の遵守だけでなく、幅広く社会的責任をはたすことで、組織の成長や社会に貢献しようとする人物が、インテグリティを持つ管理職の特徴です。
インテグリティを持つ経営者
インテグリティを持つ経営者とは、法令順守の経営や成果主義の経営にとどまらず、下記のような要素を発揮しながら経営を行う人物を指します。
インテグリティを持つ経営者の特徴
- 成果を上げるためであっても、公正で正義感がある
- 非利己的で社会的な動機を持っている
- 法的義務と倫理基準に両方に対応しながら利益を求める
- 倫理的行動の模範となる
このように、インテグリティを持つ経営者は、すべての利害関係者(ステークホルダー)に対して、自社の経営判断が公正で誠実なものとなるかといった視点で判断します。
インテグリティを持つ社員を育成するためにすべきこと
積極的に倫理的行動を行える組織や人材の育成のために、企業がすべきことを3つ解説します。
①企業の目標を共有する
インテグリティを持つ社員の育成には、企業の存在目的を共有する必要があります。そのために企業理念の明確化や、自社のとるべき社会的ポジションなどの教育を行います。
教育実践のためには、定期的なミーティングや社内報などを活用して、持続的にインテグリティな企業風土を醸造していくことが重要です。
②公正な人事評価
インテグリティな組織を構築するためには、公正な人事評価も欠かせません。組織への貢献度の高さが正当に評価され、給料や賞与として目に見えて報われた体感を得られる仕組みを導入することが必要です。またその際に成果主義に偏らず、成果までの過程を評価できる項目を設けましょう。
社員が安心してモチベーションを保ちながら働ける環境がなければ、インテグリティは育たないため、正当性・客観性が備わった人事評価の構築を行いましょう。
③自律的行動の風土浸透
組織へのインテグリティの浸透には「内なる規範に基づく自律的行動」の模範となる人物がチーム内にいることがポイントです。
社内ルールの徹底厳守を強調するのではなく、インテグリティへの認識を深める管理職やチームリーダーへそれぞれの役職に応じた研修を行い、模範となるキーパーソンを配置することで、自律的行動を引き出す仕組みを作りましょう。
まとめ
これからの企業にとって、健全な組織運営にはインテグリティが欠かせません。社内に
インテグリティを浸透させることで、仕事の効率化や組織内の人間関係も良好になり、自ずと成果を上げる仕組みが作れます。また、対外的にインテグリティを示すことは、企業の良いブランディングにもつながります。
ただし、インテグリティはすぐに実装できるものではありません。まずは経営層やリーダーが率先してインテグリティを理解・実践していきましょう。そうすることで従業員への浸透スピードも上がります。全てのステークホルダーに信頼される組織をつくるために、インテグリティ教育を実践してみてはいかがでしょうか。
WRITER
大後 裕子
C-OLING代表
生活用品メーカーで10年間企画職に従事し、企画立ち上げから海外工場との商談、販促まで商品開発のゼロから一貫して行い、多くの商品をブランディングし、リリース。 8年販売され続けるヒット商品を始め、開発商品点数累計約1,200点、約1,700店舗へ導入。ブランディングを主軸とした、経営コンサルティング、 社内教育の3つの事業を通して、多くの人の生活に豊かさを提供ができる企業を社会に増やしたいと考えています。