アンコンシャス・バイアスとは?その意味と組織で起きる具体例と対処法

2022-12-21

大後 ひろ子

C-OLING代表 ブランディングコンサルタント

組織組織開発

「アンコンシャス・バイアス」とは、その人や組織にとって「常識・当たり前」に基づく無意識的な偏った見方や、先入観・固定概念などを指します。

労働人口の減少問題の解消や、男女雇用機会の均等が求められる現代において、アンコンシャス・バイアスへの対処法をマネジメントに取り入れる企業が増えています。

今回の記事では、アンコンシャス・バイアスが与える悪影響や、組織や個人で実施できる対策について解説していきます。

アンコンシャス・バイアスとは?

アンコンシャス・バイアスについて、事例も交えながら解説していきます。

アンコンシャス・バイアスの概要

「アンコンシャス・バイアス」とは、英語で「Unconscious bias」と表記し、自分でも気づかないまま心の中に持っている偏った固定概念や先入観を指します。そして、アンコンシャス・バイアスは 私たちの生活の至るところに存在します。

(例)

など、

上記は一例に過ぎませんが、アンコンシャス・バイアスとはこういった他者や環境からの影響を受けて知らず知らずに培われてきた概念です。昨今企業内でのモチベーション低下に大きく影響しているのが、この「アンコンシャス・バイアス」を起因とするものが少なくありません。それは発言だけにかかわらず、人事配置や人事評価制度などの組織の方向性によって、受け取る人を傷つけてしまう可能性があるのです。
 

なぜ起こるのか?

アンコンシャス・バイアスが起こる背景には、企業や組織における、働き方や属性は多様化、いわゆる“ダイバーシティ化”が関係しています。「SDGs」の中で掲げられている「ジェンダー平等」や「不平等の撤廃」が目標にもあるように、女性管理職や外国籍の人材の雇用、リモートワークや短時間労働者などの働き方の多様化や、高齢者の再雇用、LGBTQ+といった多様な個性に対する理解促進への対処が、世界のスタンダードになりつつあります。

しかし、企業によっては、こういった考え方に対して「うちは関係ない」と言って議題として取り上げることもなく、偏見、固定概念に基づいた意思決定が続いています。それは今までの方針を覆すことによって自身の地位を危ぶむ人物の、自己防衛や保身、または劣等感や新たな価値感への拒否感によって起こっています。

しかし、このようなアンコンシャス・バイアスを含んだ経営を続けることは、社員のモチベーションの低下や、職場環境の悪化を招きます。これからの生産性の高い組織づくりを考えたとき、アンコンシャス・バイアスへの対処が重要になってくるのです。

【具体例】アンコンシャス・バイアスの悪影響
 

 

企業や組織における様々なアンコンシャス・バイアスの悪影響について解説します。

①職場環境への悪影響

性別・年代による役割や個性に対する考え方の固定は、職場のコミュニケーションや業務スピードを鈍化させる要因になります。例えば「育児中の女性には重要なポストは任せない」、「男なら根性を見せろ」といった性別による役割を固定して考える傾向があります。また、「新入社員は雑用からスタート」や、「昭和世代は融通が効かない」という年代によって個性を固定して考える傾向があります。

これらの固定的な考え方は、イノベーションが起こりづらい職場環境を作り出し、組織の成長に悪影響を及ぼします。

②人事評価への悪影響

アンコンシャス・バイアスは人事評価にも影響します。本来目標達成率など業績向上につながる行動が評価されるべき、人事評価にも下記のようなアンコンシャス・バイアスが働いているケースが多く見受けられます。

人事評価におけるアンコンシャス・バイアス

他にも残業や休日出勤している社員を仕事熱心と捉えたり、新卒からの生え抜き社員のミスに対して厳しく評価しないというケースもあります。このように、気づかずに行ってる歪んだ評価が、社員のモチベーションを下げる要因にもなっているのです。

③採用活動への悪影響

アンコンシャス・バイアスは採用活動にも影響を及ぼしています。

採用活動におけるアンコンシャス・バイアス


このような相手の出身や現状から能力や性格まで「なんとなく」断定し、採用・非採用を決定してしまうケースは少なくありません。

④個人への影響

上司がアンコンシャス・バイアスを持って部下に接すると、組織内での人間関係の悪化を引き起こし、モチベーションや生産性を大きく低下させることにつながります。歪んだ評価は、優秀な人材の成長機会を奪い、大きなストレスを与えます。

【組織】タイプ別_アンコンシャス・バイアス

アンコンシャス・バイアスはいくつかのタイプに分けることができます。まずは組織におけるアンコンシャス・バイアスのタイプを解説していきます。

①正常性バイアス

正常性バイアスとは、事態が悪化しても自分に都合の悪い情報やデータを無視・過小評価して「まだ大丈夫」「うちには関係ない」と考え、適切な判断ができない状態を指します。目の前の問題や、起こりうるトラブルを軽視し、問題への対処が遅れてしまう危険があります。

②集団同調性バイアス

集団同調性バイアスとは、所属する集団のなかに存在する価値観や常識に影響されて、「みんながやっているから」と個人も同調してしまうことを指します。しかし、組織にとっては「常識」でも、外では必ずしもそうとは限りません。集団同調性バイアスが強まると、社内に根付く悪しき慣習に対して、誰も言えなくなる組織になってしまう恐れがあります。

【個人】タイプ別_アンコンシャス・バイアス

次に、個人におけるアンコンシャス・バイアスのタイプを解説していきます。

④確証バイアス

確証バイアスとは、自分の意見や信念、価値観、仮説などを補強する材料ばかり集めて、反証となるデータや反対意見を排除して、客観的な視点を欠いていくことを指します。客観的・科学的な判断を否定することによって、自身や相手の過大評価だけではなく、過小評価にも影響し、意思決定に大きな過ちをもたらす可能性があります。

⑤ハロー効果

ハロー効果とは、ある対象を評価する時に、目立つ特徴に引きずられて評価が歪められる現象を指します。例えば、「自分と同じ出身だから、いい人物に違いない」といった偏った考え方から、対象の本質を見ずに評価を行うことによって、主体的な判断ができなくなってしまう傾向があります。  

③慈悲的差別

慈悲的差別とは、少数派や自分より立場が弱いと思う他人に対して、本人に確認せずに、思い込みによって先回りして不要な配慮や気遣いをすることを指します。例えば、障がいがある人に対して、本人は「同等に扱って欲しい」と考えているのに対し、過度なサポートをしたりするケースがあります。また、「女性は弱いから、プレッシャーがかかる仕事は回さないであげよう」といった考え方も、相手の自由を制限することにつながっています。

④ステレオタイプバイアス

ステレオタイプバイアスとは、性別、年齢、国籍、職業といった人の属性や一部の傾向に対する先入観や固定観念を指します。例えば、「男性は外で働き、女性は家庭を守るもの」「ゆとり世代はやる気がない」「外国人労働者はすぐ仕事を辞めてしまう」など、個人の思い込みや経験則をもとに。対象に対して決めつけて捉えてしまいます。

⑤インポスター症候群

インポスター症候群とは、客観的な評価をしっかり得られているのにもかかわらず、自分の内面的には肯定ができず、自分自身を過小評価してしまう心理状態のことを指します。自分の成功に対して「今回はラッキーだった」や「タイミングがよかったから」のせいとして見過ごし、「失敗したら周囲から批判される」というように失敗を極端に恐れて行動に移せなくなる傾向にあります。

アンコンシャス・バイアスへの対策
 

 

正しい判断ができなくなるアンコンシャス・バイアスに陥らないための、個人・組織でできる対策について解説します。

異なる意見の背景を考える

アンコンシャス・バイアスを防ぐ方法として、「自分の考えは偏っているかもしれない」という視点を持つことが有効です。自分の考えを過度に否定する必要はありませんが、自分と異なる意見に対して「なぜそういったことが起きるのか?」と事象の背景を検証してみましょう。

自分にとっての「常識」も他者にとっては「非常識」である事もあります。人の価値観は育ってきた環境や外的要因など、何かしらの背景が存在します。相手の価値観を形成した背景を洞察し、受け入れたうえで行動・発言することで、アンコンシャス・バイアスを防ぐことにつながります。

評価制度の見直しを行う

組織におけるアンコンシャス・バイアスの悪影響を防ぐためにも、役職による「この役職の人が言うのだから間違いないだろう」という考えや、新卒からの生え抜き社員に対する「かわいい後輩のミスならしょうがない」といった偏った評価を行わない仕組みづくりが重要です。自社の目標達成のための成果に対して、公正に評価する組織風土や評価制度が浸透しているか、確認してみると良いでしょう。

組織を離れた場所にもう一つの拠点を作る

1つの集団や組織に所属していると、個人の考えや価値観にも大きな影響を受け、「偏った常識」を持ってしまう可能性があります。フラットな視点で事象を捉えられるためには、組織とは関係のない立場に身を置くことが有効です。様々な価値観や多角的な視点に触れることによって、アンコンシャス・バイアスにかからない判断ができるようになります。

多様な存在を認め、主体性を重んじる

アンコンシャス・バイアスを防ぐためには、相手の存在や主体性を重んじることが重要です。特に、様々な背景を持つ人々が協働する組織において、お互いの存在を認め合うことは必要不可欠です。人には生まれてから今まで、全く同じ経験をしてきた人間はいません。企業が掲げる全社共通の目的達成のために、お互いの弱みを補填し、知識や経験を持ち寄ることで、企業の成長を促進することができるのです。

オープンクエスチョンを心がける

オープンクエスチョンは、単純に「はい」「いいえ」では答えられない質問のことを指します。オープンクエスチョンを行うことで、相手は自由度の高い回答をすることができます。自分の考えや悩み事を話すことができ、会話が発展していきます。例えば、上司が部下に対して「何か質問はある?」と聞くのではなく「今の段階で、一番困っていることは何?」と質問することで、部下から大切な情報を引き出すことができます。

まとめ

アンコンシャス・バイアスは、「過度な自己防衛」から生まれる「無意識の偏り」が原因です。現状の自分の価値観を疑いすぎる必要はありませんが、様々な角度から対象を捉えることで、今まで思いつかなかった解決策を見つけることができます。

企業や個人においても、目の前のことを闇雲に頑張るのではなく、ターゲットと目的・ゴールを明確にする習慣をつけることで、達成のための道順をフラットな視点から捉えることができるようになるでしょう。

今回の記事を参考に、日々の何気ない習慣を見直して、アンコンシャス・バイアスにかからない物事の捉え方を習得していきましょう。
 

WRITER

大後 裕子

C-OLING代表

生活用品メーカーで10年間企画職に従事し、企画立ち上げから海外工場との商談、販促まで商品開発のゼロから一貫して行い、多くの商品をブランディングし、リリース。 8年販売され続けるヒット商品を始め、開発商品点数累計約1,200点、約1,700店舗へ導入。ブランディングを主軸とした、経営コンサルティング、 社内教育の3つの事業を通して、多くの人の生活に豊かさを提供ができる企業を社会に増やしたいと考えています。