リスクマネジメントとは? 正しい意味とビジネスに生かす7つのプロセスを解説

2022-10-27

大後 ひろ子

C-OLING代表 ブランディングコンサルタント

組織その他

リスクマネジメントとは、企業経営に影響を与えるリスクを想定して適切な予防を行い、損失を回避もしくは低減させるプロセスを指します。

目まぐるしい時代の変化に伴い、経営のリスクも多様化・複雑化しています。今回の記事では経営リスクを低減・回避するために有効なリスクマネジメントの概要と、PDCAを活用した7つのプロセスについて解説します。

リスクマネジメントとは?

企業の成長には新規事業展開や新規市場の開拓など、いわゆる攻めの計画も重要ですが、それ以前に重要なことは、ミスが起こらない仕組みを作ることです。ミスが起こることは、時間や資金の損失だけではなく信頼を失うことにもつながります。一つのミスによって顧客や株主などのさまざまなステークホルダーの信頼を失わないためにも、リスクマネジメントについて正しく理解しておきましょう。

リスクマネジメントの意味

リスクマネジメントとは、企業経営に不利益な影響を与えるリスクに対して、適切な予防を行い、損失を回避もしくは低減させる経営管理手法です。

経営におけるリスクは大きく分けて2つあります。

①投機的リスク(ビジネスリスク)
為替や金利の変動や新商品開発などの、企業に対して損失と利益の両方の可能性をもたらすリスク


②純粋リスク
純粋リスクとは企業に損害や損失のみをもたらす、概念的に理解しやすいリスク。

リスクマネジメントの目的、必要性

事業存続、安定経営のために、想像できるリスクから思いも寄らないリスクについて、リスクマネジメントを行うことの必要性について解説します。

リスクマネジメントの目的

近年、企業を取り巻く環境は、グローバル化や情報化の進展、取引構造の変容などによって不確実性が増しています。そのような環境の中で、企業は成長に向けた投資を行うのと同時に、不必要なコストの発生を防止するため、潜在的なリスクを把握して適切なリスクマネジメントを行うことで将来の経営危機を未然に防ぐことが期待されているのです。

リスクマネジメントが注目される背景

近年、ビジネスシーンのみならず、グローバル化と情報化の進展によって複雑化する世界で、リスクマネジメントへの注目はますます高まっています。

2009年にリスクマネジメントの国際規格であるISO31000が発行され、さらに2018年に「ISO31000:2018」に改定されています。2020年には企業の法的リスクを管理する標準規格「ISO31022:2020 リスクマネジメント-リーガルリスクマネジメントのためのガイドライン」も発行されています。

「リスク」というとマイナスの面ばかりが強調されるイメージがあります。しかしリスクの持つ不確かさが及ぼす影響には、好ましいもの・好ましくないものの両方があります。リスクマネジメントは、何が起こるかわからない現代で、企業の経営目的を達成するために有効な判断手法なのです。

リスクマネジメントの類語や違い
 

 

リスクマネジメントの類語やそれぞれの違いについて解説します。

クライシスマネジメントの違い 

クライシスマネジメントとは、「危機は必ず発生する」という前提の上で、経営に対する危機管理を行うことを指します。
リスクマネジメントとクライシスマネジメントの大きな違いは、リスクマネジメントは「危機を起こさないためにどのように予防するか」を検討するものです。その一方、クライシスマネジメントでは「危機は必ず起こることを前提」として、起きた後どう対処するかを検討します。

発生確率は低いですが、天災の発生後などに対しても、クライシスマネジメントに基づき事前に対策を講じることが重要です。

リスクヘッジとの違い 

リスクヘッジとは、起こり得るリスクをあらかじめ予測し、事前にそれを避けるように対策を取ることを指します。

リスクヘッジという言葉はもともと金融取引で使用されていた言葉です。1つだけの会社に投資を行うと、株価の下落によるダメージも大きくなります。そのようなリスクを避けるため投資先を分散するなどの対策を事前に取ることをリスクヘッジと呼んできました。

現代のビジネスシーンにおいてリスクヘッジは「危険を避けるための手段を行う」ということに対して使用されています。

リスクアセスメントとの違い 

リスクアセスメントとは、職場における潜在的な危険性や有害性を見つけ出し、その結果に基づいて除去や低減していく対策を実施していく一連の手法のことを指します。

リスクアセスメントには、リスクの見積もり、優先度の設定、リスク低減措置の決定・実施とその記録と有効性の確認を行う手順が存在します。これらは2006年以降、労働安全衛生法第28条として事業者の努力義務とされています。

またリスクアセスメントにおいて重要なことは、事業者のリスク管理の意思決定のために必要な調査・評価を行うことなのです。

リスクマネジメントのプロセス
 

 

リスクマネジメントの実施には、PDCAサイクルを活用することが有効とされています。今回は、PDCAサイクルを活用した7つのプロセスについて解説します。

①原則の設定(Plan)

まず最初に、リスクマネジメントのあるべき姿を設定します。この時、組織のメンバーにも実施の目的を共有し、理解を深めてから導入することが効果的です。

このプロセスを丁寧に行うことで、効果的な対策を決定・実施していくことができるのです。

②リスクの特定 

リスクの特定とは、企業の事業内容を進めるにあたって、どのようなリスクがあるかを洗い出すことを指します。主に「リスクの発生確率」と「リスクが発生した場合の影響度」の2つのテーマについてリスクを列挙していきます。その際、リスクの管理部門だけでなくさまざまな部署の従業員とブレーンストーミングなどを通してリスクを列挙していくことで多角的なリスクマネジメントが可能になります。

③リスクの分析 

リスクの分析とは、特定によって列挙されたリスクに対して、「影響の大きさ」と「発生確率」を可視化する作業です。「影響の大きさ」を大・中・小とランク分けを行い、発生確率をデータから数値化することでそれぞれのリスクを重大さで比較できるようになります。

④リスクの評価 

リスクの評価では、分析によって明確になった項目に対して最重要なリスクを選定し、優先順位をつける取り組みです。ブレーンストーミングで列挙された、大小様々なリスクに対して同時に対応するのは非現実的です。そこで具体的な対策案を検討しやすくするよう、リスクに対して、優先順位を決定することが有効なのです。

⑤リスクへの対応実施 (Do)

対策の策定とは、優先順位の高いリスクに対して、どのようにリスクマネジメントを行うかを組織内で話し合い、実施に向けての策定を行い、実際に遂行します。このマネジメントを現実的なものにするため、誰がどのように対策を進めるか具体的に落とし込むことで、実施しやすくなります。
また、このプロセスにおいてのポイントは、実施したこと自体に満足して、すぐに次の新しい「原則の設定(Plan)」に移らないことです。次の「モニタリングと評価(Check)」によって、反響の収集や効果測定を行いましょう。

⑥モニタリングと評価(Check)

モニタリングと評価(Check)では、リスク対策を実施し反響の収集や効果測定を行います。そこから改善点を見出すモニタリングと評価を行うことで、実施した対策の評価を行います。質の高い対策を作り上げるために、そもそもの対策の目的と実際の効果や反響を照らし合わせて改善点を見出していく作業は、リスクマネジメントの推進において重要なプロセスの1つなのです。

⑦改善(Action)

最後に改善(Action)では、モニタリングと評価から見出した改善点の修正対応を行います。この際、実際の職場での運用の状況、社員の取り組み方法などが適切であったかも含め一連の流れに修正を行います。ここで作られた改善点はガイドラインにまとめることで、組織内で再現性が高くなります。

そしてこれらのプロセスを、PDCA(Plan・Do・Check・Action)サイクルに乗せて回す習慣をつけることで、質の高い対策の持続的なリスクマネジメントが可能になります。

まとめ

リスクマネジメントとは、企業経営に不利益な影響を与えるリスクに対して、適切な予防を行い、損失を回避もしくは低減させる経営管理手法です。

そのためにもリスクマネジメントを感情的に行ってはいけません。企業の成長に向けて、組織的に将来発生する可能性があるリスクを能動的に把握し、データに基づく最適な解決法を決定・実践していくプロセスを習慣化することが重要です。

今回の記事を参考に、自社のリスクマネジメントの見直しを行うことで、企業の成長に欠かせない生産的な組織の構築と、ステークホルダーからの信頼を得ることを目指しましょう。 
 

WRITER

大後 裕子

C-OLING代表

生活用品メーカーで10年間企画職に従事し、企画立ち上げから海外工場との商談、販促まで商品開発のゼロから一貫して行い、多くの商品をブランディングし、リリース。 8年販売され続けるヒット商品を始め、開発商品点数累計約1,200点、約1,700店舗へ導入。ブランディングを主軸とした、経営コンサルティング、 社内教育の3つの事業を通して、多くの人の生活に豊かさを提供ができる企業を社会に増やしたいと考えています。