デザイン思考(デザインシンキング)とは? ビジネスでの活用事例を解説

2022-10-26

大後 ひろ子

C-OLING代表 ブランディングコンサルタント

組織その他

デザイン思考とは、前例のない課題や未知の問題に対して、ユーザー視点に立ってサービスやプロダクトの本質的な課題・ニーズを発見し、前例のない課題や未知の問題を解決するための思考法です。

今回の記事では、デザイン思考(デザインシンキング)の基本的な意味とそのメリット、デザイン思考を組織に導入するための5つのプロセスまで解説します。

デザイン思考(デザインシンキング)とは?

デザイン思考(デザインシンキング)は英語で「Design Thinking」と書きます。デザイナーが設計したサービスやプロダクトを表す「デザイン」という言葉と混同されがちですが、デザイン思考は、これらが設計される際に用いられた思考のプロセスを指すのです。

従来の思考法とデザイン思考との違い

従来の思考法には「論理的思考(ロジカルシンキング)」や「批判的思考(クリティカルシンキング)」などがあります。これらの思考法とデザイン思考とでは、アプローチの仕方や、問題解決のプロセスに違いがあります。

論理的思考(ロジカルシンキング)
 情報を結論と根拠に分け、その論旨を明確にする思考法です

批判的思考(クリティカルシンキング)
 前提を疑い、思考の偏りに気づことで現状を把握し、
 問題の現状打破を目指す思考法です。

デザイン思考(デザインシンキング)
ユーザー視点に立って本質的な課題・ニーズを発見し、
課題解決に向けて考えるユーザー中心の思考法です。

デザイン思考がビジネスシーンで注目される背景


様々な業種でデジタル技術の進化に伴い、新しい製品やサービス、ビジネスモデルが続々と登場しています。その中で、ユーザーの視点に立ったデザイン思考が注目されています。

DXの推進

DX(Digital Transformation / デジタルトランスフォーメーション)とは、「進化したデジタル技術の浸透によって、生活やビジネスをより良くする変革」を指します。

2018年には、経済産業省が定義するガイドラインから「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と具体的に提唱されています。

様々な企業が競争力の維持・強化を図るために、ユーザー視点に立った本質的な課題の発見と解決が可能になるデザイン思考が求められています。

サービスデザイン

サービスデザインとは、デザイン思考を具体的にビジネスに落とし込む考え方を指します。それは、商品単体の価値を上げることではなく、サービスの収支や持続可能性を維持しながら、より価値のある「顧客体験」をデザインすることです。

従来のリサーチを行っても、ユーザーの課題の本質を素早く捉えることが難しいため、デザイン思考や人間中心設計で行う、UXやCXを意識したサービスやプロダクトの実装が進められています。

デザイン思考の考え方とプロセス
 

 

スタンフォード大学のハッソ・プラットナー・デザイン研究所によると、デザイン思考を実践するには、以下5つのプロセスが必要とされています。

  1. 観察・共感
  2. 問題定義
  3. 概念化
  4. 試作
  5. テスト

またこれらの5つのプロセスは、順番に行っていかなくても良いこともポイントです。ユーザーの本質を捉え、解決するために、同時並行で行ったり、プロセスを行ったり来たりしても良いとされています。

① 観察・共感

デザイン思考で一番重要なのは「ペルソナ」を設定することです。「ペルソナ」とは、サービス・商品の典型的なユーザー像から、たった1人に絞った人物像を指し、マーケティングにおいて活用される概念です。

デザイン思考ではこの「ペルソナ」の設定に、インタビューやアンケートなどの観察を通して、その人物が何に共感し、どんな課題を抱えているのかを見つけ出していきます。

②問題定義

観察・共感から得られた情報をヒントに、ユーザーが求めるニーズを定義することができます。このニーズは、本人にとって意識的なものだけではなく、無意識的なものも多く存在します。

特に、無意識下で課題と感じているニーズを抽出することができれば、提供すべき方向性やコンセプトを考えやすくなります。

③概念化

ペルソナの設定による観察・共感、そしてニーズを定義できたところで、解決するためのアイディアを出していきます。ブレーンストーミングやディスカッションを用いて数多くのアイデアを創出します。質ではなく量を意識して思いつく限りのアイデアをアウトプットします。

④ 試作

アイデアが出てきたら、ペルソナやユーザーに確認してもらうための試作品(プロトタイプ)を作成します。この時、時間やコストをなるべく掛けずに、まず形にすることを心がけます。この試作品によって、そのアイデアが課題解決に合うものかを確認しやすくなります。

⑤ テスト

試作品に対してペルソナやユーザーによる施策とテストを繰り返し、フィードバックされた意見から具体的な解決策になるようブラッシュアップを行います。このプロセスで自分たちが定義したニーズや試作が正しかったか確認し、より満足度の高いアウトプットを目指しましょう。

「デザイン思考」がもたらすメリット
 

 

デザイン思考がもたらすメリットについて解説します。

アイディア創出が習慣化する

デザイン思考では、多くのアイデアを出す。小さく何度もテストする。このような姿勢がより良いものを生むと考えられています。失敗を恐れて動けなくなるより、小さくテストし微調整を繰り返すことで、固定概念に囚われないイノベーションを生み出すことができるのです。

多様な意見を受容できる

デザイン思考では、様々な意見や見解を受け入れることが重要です。多角的な視点からの意見を受け入れることは、ダイバーシティ的な考え方が求められる現代ではとても重要な能力です。デザイン思考によってこの能力が高まれば、今までにない新しい発見や問題解決の方法を生み出すことができるのです。

イノベーションが生まれる

デザイン思考を身につけることで、従来のような作り手や市場中心型のアプローチではなく、ユーザー視点によって新しい価値を創造することができます。目まぐるしく変化するマーケットやユーザーの生活の変化に対しても、課題の本質に迫り、本当に求められる商品やサービスを生み出すことができるのです。

チームビルディング

デザイン思考ではチームのメンバーのコミュニケーションによって多くのアイデアを創出することが重要です。デザイン思考の5つのプロセスを通して、役職や部署、上下関係に関係なくメンバー全員が参画することで、コミュニケーションが活性化して強いチームづくりにもつながります。

まとめ

デザイン思考は、デザイナーやクリエイターだけの問題解決方法ではありません。
ビジネス上の全ての課題解決に向けた、相手のニーズを観察・定義したうえでアイデアを出し、試作とテストを繰り返すことで、改善をしていく方法です。

今回の記事を参考に、解説したデザイン思考の基本の意味を理解し、デザイン思考の考え方と5つのプロセスを実行して、商品やサービスを作るときだけでなく、顧客提案やサービスデザインなど様々なビジネスや生活のシーンで役立てていきましょう。
 

WRITER

大後 裕子

C-OLING代表

生活用品メーカーで10年間企画職に従事し、企画立ち上げから海外工場との商談、販促まで商品開発のゼロから一貫して行い、多くの商品をブランディングし、リリース。 8年販売され続けるヒット商品を始め、開発商品点数累計約1,200点、約1,700店舗へ導入。ブランディングを主軸とした、経営コンサルティング、 社内教育の3つの事業を通して、多くの人の生活に豊かさを提供ができる企業を社会に増やしたいと考えています。