やりがい搾取とは?企業がやりがい搾取に起こさないために。その傾向と対策

2022-11-22

大後 ひろ子

C-OLING代表 ブランディングコンサルタント

組織人材育成・マネジメント

「やりがい搾取」とは、 経営者が支払うべき賃金や福利厚生等の代わりに、従業員に「やりがい」を強く意識させることによって、本来支払うべき賃金の支払いを行わずに従業員の労働力や時間を奪い取ることを指します。

企業の経営や人事を担当していると、人件費削減・生産性向上の面から優秀な人材を安い賃金で雇いたいと考えることはあるでしょう。しかし、どんなにやりがいを意識させても、その状況で従業員がエンゲージメントを高めることはできません。

今回の記事では、やりがい搾取企業にならないための対策や、やりがい搾取に陥りやすい企業や職種、業務の特徴について解説します。

やりがい搾取とは?

「やりがい搾取」という言葉が注目されているように、現代の日本社会においてやりがい搾取が行われている企業があふれているのかもしれません。
まずはやりがい搾取の基本的な意味ややりがい搾取が起きてしまう経緯について解説します。

やりがい搾取の基本的な意味

やりがい搾取とは、本来は従業員の働きに対して、賃金や福利厚生の改善等で報いるべきところを、「顧客からの感謝の言葉」や「仕事に対するやりがいや責任感」のみを強調して、待遇の改善をしないことを指します。

そもそもビジネスにおけるやりがいとは、業務を通じて賃金や賞与以外に得られる、「無形の報酬」と考えられ、充実感、達成感、などから自己肯定感を高める働きがあります。本来は業務へのモチベーションを高める重要な心の動きを指します。

やりがい搾取はなぜ起こるのか?

やりがい搾取の発生については、東京大学大学院教育学研究科教授の社会学者である本田由紀氏が定義した「労働搾取構造」によって、搾取に結びつきやすい「やりがい」として、「趣味性」「奉仕性」「ゲーム性」「サークル性・カルト性」の4つを挙げています
(『軋む社会――教育・仕事・若者の現在』河出書房新社、2011年)

これら4つの搾取に結びつきやすい「やりがい」を賃金や賞与の改善の代わりに与えることで、「労働力を使用する=搾取する」という労働形態をとる企業が少なくないのです。

やりがい搾取に陥りやすい企業とは

やりがい搾取に陥りやすい企業・職種・業務について解説します。

やりがい搾取に陥りやすい企業の特徴

日本の働き方の根底に「御恩と奉公」を良しとする文化が根強く残っています。そのため、やりがい搾取に陥りやすい企業には下記のような特徴があります。

このように項目を出すと、意外と日本企業の中で溢れている項目ばかりかもしれません。こういった企業風土に対して、冷静で優秀なタイプの中途採用者や新卒採用者は、早々に離職の決断をしていきます。

やりがい搾取に陥りやすい職種

やりがい搾取に陥りやすい業界には、労働時間が長く、顧客に対面でサービスを提供する業務や、長い下積みが必要とされる業種に多い傾向があります。また、成果主義の風土が強い業種や、雇用形態に個人事業主(フリーランス)が多い夢や憧れ、趣味の延長線上につながりやすい業界も「趣味性」「奉仕性」「ゲーム性」「サークル性・カルト性」のやりがいを強調するやりがい搾取に陥りやすい傾向があります。

やりがい搾取になりやすい業務の特徴

やりがい搾取になりやすい業務の特徴をいくつかご紹介します。


このようにやりがい搾取の業務にはいくつかの共通点が存在するため、経営者や人事担当者は、従業員や採用者に対してこのような業務依頼が行われないよう未然に確認しましょう。

【チェック】やりがい搾取の基準
 

 

やりがい搾取は、企業や組織にとってさまざまなデメリットをもたらします。

経営者や人事担当者は、ここで解説するやりがい搾取の判断基準を参考に、従業員や採用者に対して健全な労働環境を知ることが重要です。

やりがい搾取の共通判断基準

やりがい搾取の共通判断基準を紹介します。


これらの条件のいずれかに該当する業務依頼は、やりがい搾取の可能性が高いので、組織で、健全な業務依頼への見直しを行いましょう。

やりがい搾取を防ぐ対策
 

 

やりがいの感じ方は個々の従業員によって異なります。そのため企業は業務依頼や従業員の教育を行う際、上記の判断基準に十分配慮して、やりがい搾取を未然に防ぐ対策を立てる必要があります。

経営者・上司の意識改革 

企業や組織において、経営者・上司・部下の間に、世代間による価値観のギャップがあることを認識することが重要です。 特に経営者や上司である、業務を依頼する立場の人物は、近年の価値観や働き方の多様化を十分理解することが必要です。

やりがいとは部下の成長に欠かせない重要なものです。しかしやりがいとは本人の主観で決まるものです。決して企業や上司から言われて備わるものではありません。経営者・上司は部下が能動的にやりがいを感じられるよう、企業の存在意義を明文化し、実際の業務で感じられる仕組みづくりを心がけましょう。

労務管理の見直しと定期的な面談の開催

やりがい搾取の多くのケースは、残業代の未払いやみなし残業による長時間労働で多く見受けられます。出勤・退勤時間の確認、離職や欠勤が多い部署の特定を行い、残業代の適切な支払いや、労働時間における労働内容の見直しを図りましょう。

また上司や人事担当者との定期的な面談を開催することで、従業員が抱える課題を共有することによって早期改善につなげることも可能です。

社内・社外に相談窓口を設置する

やりがい搾取は年齢が高い管理職と若年労働者との間、中小企業においては経営者と従業員の間で起こりやすく、問題提起がされにくい傾向にあります。 そこで、人事や総務が対応する窓口を設置する、もしくは社外に相談窓口を設置することが大切です。

特に、経営者や上司の性格上やりがい搾取の傾向が強い場合、社外に相談窓口を設置することで問題を早期発見することにつながります。 問題を解決することで従業員は本来のやりがいを見出すことができ、従業員エンゲージメントを高めることにつながります。

まとめ

やりがい搾取のデメリットを聞くと「やりがい」自体を危険視する人もいるかもしれませんが、やりがい搾取が悪いのであって、搾取をしていないやりがい企業は、むしろ良い企業と言えるでしょう。

やりがい搾取はどんな企業にも起こり得ることです。今回の記事を参考に自社がやりがい搾取に陥っていないか、現状を把握して未然に防ぐ対策に着手しましょう。
 

WRITER

大後 裕子

C-OLING代表

生活用品メーカーで10年間企画職に従事し、企画立ち上げから海外工場との商談、販促まで商品開発のゼロから一貫して行い、多くの商品をブランディングし、リリース。 8年販売され続けるヒット商品を始め、開発商品点数累計約1,200点、約1,700店舗へ導入。ブランディングを主軸とした、経営コンサルティング、 社内教育の3つの事業を通して、多くの人の生活に豊かさを提供ができる企業を社会に増やしたいと考えています。