BCP(事業継続計画)とは?その必要性と策定方法や運用のポイントを解説
2022-12-05
大後 ひろ子
C-OLING代表 ブランディングコンサルタント
組織その他
BCPとは企業や団体の「事業継続計画」を指します。その目的は自然災害やテロ、システム障害といった、企業が遭遇しうる危機的状況による損害を最小限に抑え、重要な業務の継続・早期復旧を図ることです。
東日本大震災や新型コロナウイルスの流行により、大手企業だけでなく中小企業でもその重要性が注目されています。
今回の記事ではBCPの基本的な意味やその必要性から、策定方法や運用のポイントについて解説していきます。
BCPとは?
まずはBCPの概要と日本における策定状況、防災計画との違いについて解説します。
BCPの概要
BCPとは日本語で「事業継続計画」という意味を指すものです。英語で「Business Continuity Plan」と表記し、その頭文字をとってBCPと呼ばれています。
- 自然災害
- システム障害
- サイバーテロ
- 情報漏洩
- 感染病の流行
BCPは、このようないつ発生するわからない危機的状況において、企業の損害を最小限に抑え、迅速に事業を普及させることで、冷静な対処を可能とし、企業を存続させることが目的です。そのため、取引先・投資家らも下記企業のBCPへの取り組みに対して注目を集めています。
BCPと防災計画との違い
防災計画との違いをお話しします。「BCP」が危機的状況における経営存続への取り組みである一方、「防災」は危機的状況において、人命の安全や建物などの財産を守ることを目的とした取り組みです。
災害対策基本法では、防災の定義を「災害を未然に防止し、災害が発生した場合における被害の拡大を防ぎ、及び災害の復旧を図ること」としています。
BCP:危機的状況において 会社を存続させる取り組み
防災計画:危機的状況において 人命や建物などの財産を存続させる取り組み
BCPの策定状況
2005年に内閣府から「事業継続ガイドライン」が交付され、BCP策定を強く推奨しています。ただし、2011年の東日本大震災以降BCPの必要性を感じる企業が増えてきた一方、BCPを策定完了している企業の大半は、大企業という状態です。
しかし、新型コロナウイルス流行によって中小企業の中でもBCP対策の重要性を感じている企業は年々増加の傾向があり、今後普及率は格段に高まっていくと予測されています。
また、テクノロジーの進化によって目まぐるしく変化する現代において、策定から時間が経ってしまったものや、指示系統や具体策が定まっていなかったことが原因で、BCPが現場で効果をなさなかったケースもあります。
- BCPが従業員に周知されていなかった。
- 代替戦略が定まっていなかった。
- 現場担当者が定まっていなかった。
BCPの策定には、自社を取り巻く環境的要素を網羅することが重要ですが、まずは一度事業継続計画書を作成することがBCP対策のファーストステップとなります。
BCPの必要性
BCPは防災対策と異なり、危機的状況における経営存続が目的です。早期の復旧を可能にするBCPの必要性について項目を分けて解説していきます。
災害発生時の被害緩和
BCPへの取り組みは、大規模な災害発生時の被害を緩和します。昨今では、先の東日本大震災や気候変動による巨大台風や集中豪雨といった未曾有の自然災害が頻発しています。このような自然災害は、 都市部の本社機能だけにとどまらず、地方の工場や営業所に大きな損害を及ぼす可能性があります。自然災害という予測もしにくい事態に対して、企業経営を存続させるために、BCPの取り組みが重要なのです。
企業価値の向上
大規模な災害発生やさまざまな企業経営の危機的状況において重要なことは、迅速な復旧です。リスク対応に優れた企業として、株主、取引先などの幅広いステークホルダーから信用を得ることができます。またBCPの策定状況は、投資家からの評価基準の一つにもなっています。BCPの策定は長期的な企業価値を向上させるメリットも持っています。
従業員への安心感
BCP対策によって災害リスクの影響を緩和ができることから、従業員が企業に対して安心感を抱くようになります。従業員は、災害による企業倒産で職を失うことを恐れています。その恐怖から転職を視野に入れて、日々の業務を行うことで生産性が低下してしまいます。BCP対策策定と従業員への共有をすることで、急に仕事を失うリスクや不安を軽減できます。安心して目の前の仕事に取り組むことができるので、日々の仕事の生産性向上にもつながります。
自社シェアの維持
緊急時でもすぐに事業を再開できることは、周りが混乱している中で、自社シェアを維持する効果があります。天災だけでなく顧客情報の流出などにも素早く対処することで、自社シェアを減らすことなく維持することができます。
BCPの策定方法
危機的状況において、事業の早急な復旧を可能にするためのBCPの策定方法について解説します。
基本方針を決める
最初に企業が目指す姿を明確化します。その際、企業経営の原点となる経営理念やビジョンを振り返り、自社の目指すべき方向性を見直していきます。従業員の人命を守り、クライアントへの供給責を果たし、企業の存在価値を維持するためにも、まずは自社の基本方針を再確認します。
促進に向けた体制を考える
BCP策定のためには、経営者などの経営層を含めた各部署から運用の責任者の選定を行い、組織体制を整えることが重要です。また、危機的状況が実際に起きた時にBCPを効果的に機能させるためには、取引先企業や協力企業といったステークホルダーとの連携が必要不可欠です。
コア事業・サブ事業の選定
危機的状況において、経営資源をコア事業に集中させることによって事業の早期復旧が望めます。先に見直した自社の経営理念やビジョンを達成するための経営方針に対して、中核となるコア事業、優先順位が下がるサブ事業を選定していきます。さらに、処理速度を低下させる原因となるそれぞれの事業の制約条件なども洗い出しておくと良いでしょう。
影響度の測定を実施する
BCPの基本方針がまとまったら、危機的状況による制約条件などが事業に対してどの程度の影響を及ぼすか、事業影響度分析(BIA)を測定します。
- 影響はどの時系列で進んでいくのか。
- それぞれどのような影響を及ぼすか。
- 復旧の優先順位をどのようにするか。
影響度が少ない項目から復旧に取り組むことで、企業活動を早期安定化することにつながります。
戦略・対策を計画書に落とし込む
最後に、先の影響度や時系列、優先順位を計画書に落とし込みます。そしてその計画書を現場で働く従業員と共有するために、教育計画を立てます。定期的なミーティングや講演、訓練を実施し、計画書の内容が実際の現場で実行可能か確認していきます。現場での指示系統や情報伝達経路などに無理や無駄がないかチェックしましょう。
BCP運用のポイント
BCPをスムーズに運用するポイントについて解説します。
コア事業に集中する
危機的状況下からの復旧時には 活用できる経営資源も限られています。そのため最優先で自社が取り組むべき重要事業を明確にしておくことが重要です。また、的を絞った復旧活動の方が、効果が出やすいことも重要です。そのため、BCP策定の上で自社の売り上げを支える「コアとなる事業・コアとなる商品・コアとなる顧客」が何であるかを分析しておくという事は企業経営を守る上で必要不可欠です。
社内への具体的な行動内容の共有
BCPが上手く機能しない要因は、作成した計画が従業員と共有できていないことが多く挙げられます。BCPを策定する際は、従業員に対して実施の目的を必ず共有し、非常事態でも実際の現場でスムーズに対応ができるよう、計画・指示を検討しましょう。この具体的な行動指針を立てておくことが、冷静な判断と行動を促し、二次災害のリスクを軽減することにつながるのです。
見直し・アップデートの実施
BCPが効果的に機能するためには、定期的な見直しとアップデートの実施が必要です。
- 経営トップ交代のタイミング
- 従業員が増えるタイミング
- 移転のタイミング
- 組織変化のタイミング
担当者の移動や離職、方針変更などの変化によって機能を損なわないよう、上記のようなタイミングで見直しとアップデートを行うことが重要です。
まとめ
BCPは危機的状況において事業を継続するための計画です。またそれだけでなく、株主や従業員、取引先などの幅広いステークホルダーから、企業の信用を高める対策としてもとても有効です。
しかしBCP策定において、起こりうる全てのリスクを網羅した完璧な計画を立てることは、ほぼ不可能だということを覚えておきましょう。その対策として、日常的に従業員とのコミュニケーションを活性化しておくことが重要です。自社の業界においてどのようなリスクが存在するかを話し合う機会を設けておくことで、多角的にタイムリーな情報を得ることができ、BCP策定に活用することで、実際に危機的状況が起こった際に、事業復旧に大きく貢献すると考えられます。また話し合いの場を設けることで従業員たちにも当事者意識や、具体的な策を考える機会にもなり、現場での実施もスムーズに行うことができるでしょう。
今回の記事を参考に、まずは一度事業継続計画を明文化してみることから始めてみましょう。
WRITER
大後 裕子
C-OLING代表
生活用品メーカーで10年間企画職に従事し、企画立ち上げから海外工場との商談、販促まで商品開発のゼロから一貫して行い、多くの商品をブランディングし、リリース。 8年販売され続けるヒット商品を始め、開発商品点数累計約1,200点、約1,700店舗へ導入。ブランディングを主軸とした、経営コンサルティング、 社内教育の3つの事業を通して、多くの人の生活に豊かさを提供ができる企業を社会に増やしたいと考えています。