PEST分析とは?事例やフレームワーク、組織での活用のコツやメリットを解説

2022-11-24

大後 ひろ子

C-OLING代表 ブランディングコンサルタント

組織組織開発

PEST分析とは、中長期的に自社業界を取り囲むマクロ環境を把握するためのマーケティング手法のひとつです。「Politics(政治)、Economy(経済)、Society(社会)、Technology(技術)」の4つの頭文字の頭文字を取ったもので、主にマクロ環境要因を網羅的に洗い出しに使用されます。

今回の記事では、自社の強みと業界や市場を客観的に判断するためのPEST分析について概要から5ステップのやり方まで解説します。

PEST分析とは?

PEST分析は、マーケティング分野の第一人者であるフィリップ・コトラー氏が考案しましたもので、下記の4つの視点から自社を取り巻く業界や市場などの環境から、自社に対してプラス・マイナスの影響を与え得る要因を整理し、対策を考えるために使用します。

PEST分析の概要

「PEST」は、下記の4つの単語の頭文字を取った造語です。

P )Politics/Political(政治) 
E )Economy/Economical(経済) 
S )Society/Social/Cultural(社会) 
T )Technology/Technological(技術)

PEST分析を使うことで、市場や業界の流れを4つの切り口からマクロ的な視点で分析できます。そこで見つかった課題を元に、事業戦略やマーケティング戦略を効率的に行うことができるのです。

PEST分析の目的

PEST分析の目的は、自社業界を取り囲むマクロ環境を長期的に把握、洞察することで、「チャンス=市場機会」を捉えることです。経営を行う上で、自社業界がいるマーケットは、常に世の中全体の変化(マクロ環境)に大きな影響を受けています。

そのためにマクロ環境の変化を把握することは、自社を取り巻く環境の「脅威」を避け、「機会」に得ることにつながります。さらにそのトレンドに乗ることで業界シェアを拡大し競争優位なポジションを確立することも可能なのです。

例えば、「Google」や「楽天」、「Facebook」や「セブン-イレブン」などの急成長の裏には、企業理念や資本だけではなく、PEST分析によるマクロ分析によってトレンドを捉えたことが大きく関係しています。

PEST分析の4つの要素
 

 

マクロ環境には様々な要因があります。その外部要因をPESTの4つに分解・分析することで、自社に影響を与え得る「機会」や「脅威」の要因を客観的に認識しましょう。

P )Politics/Political(政治)

P )Politics/Political(政治)は政治的環境要因を指し、法律や法改正(規制、緩和)・税制や減税・増税・政府組織やデモ・圧力団体などのさまざまな組織や個人、市場のルールに影響を与え、その行動を制限するものです。たとえば、企業の自由な競争を促進する「独禁法」などもそのひとつです。

Politics/Political(政治)の分類は、いずれも一企業の力の及ぶところではないため、企業はこれらの改正動向を常に注視し、事前にシミュレーションしておくことが重要です。

E )Economy/Economical(経済) 

E )Economy/Economical(経済)は、消費者の「購買力」を左右する、景気や経済成長など価格連鎖に影響を与える要因を指します。世界的な為替や株価・金利・原油価格・経済成長率・景気動向・消費動向 物価(インフレ、デフレ) は一般消費者の給与所得にも大きな影響を与え、Economy/Economical(経済)のトレンドは大きく変化します。

S )Society/Social/Cultural(社会)

S )Society/Social/Cultural(社会)は、日本では社会問題にもなっている少子高齢化のような、人口動態の変化によって需要構造に影響を与える要因です。例えば、先の少子高齢化などによる人口動態や密度の変化・構成世帯・流行や世論・宗教や教育・言語といったものが該当します。

T )Technology/Technological(技術)

T )Technology/Technological(技術)は、近年のインターネットの普及によって加速度的に競争ステージに影響を与える要因です。例えば、スマートフォンやIP電話の登場、ビデオテープがDVDに、そしてBlu-ray Diskに新しい市場を作るように、新しい技術は、新しい市場と機会を創造します。

PEST分析のやり方 5ステップ

PEST分析に取り組む際の5ステップについて解説します。

PESTの4要素に分解

まずは自社に関係しそうな情報を集めます。その際、効果的に分析を行うため、SNSなどのミクロな情報からでなく、新聞やニュース、業界紙や講演会といったマクロ視点の情報を集めるよう心がけましょう。

そして集まった情報を「P・E・S・T」の各要素に振り分けて、文字に起こし、可視化します。またこの分析の目的は、分析を正しく行うことではなく、自社に影響を与える重要な要因を洗い出すことを忘れずに行いましょう。

「事実」と「解釈」に分ける

次に、PESTに振り分けた項目を「事実」と「解釈」に振り分けます。解釈は、個人的な理解や自社目線の推測が含まれたもののため、正確なデータではないので、戦略を策定しても結果が伴いません。ここでは、実際に起きた出来事や、実証データなどの事実に基づく要因を拾い出しましょう。

「機会」と「脅威」に分ける

「事実」の項目を「機会」と「脅威」に振り分けます。マクロな外部環境による影響は、企業にとって大きな「機会」にも「脅威」にもなりえます。
外部環境における事実要因を、「機会を得るものか」それとも「脅威として避けるか」を戦略として捉える、多角的な視点を持つことが重要です。

「機会」と「脅威」の時間軸を見極める

「機会」と「脅威」に振り分けた項目を、課題として「短期的」もしくは「長期的」であるか振り分けます。「機会」のなかに並ぶ項目も、すぐには実行すべきこととそうでないことが混同しています。そこで「機会」と「脅威」それぞれの時間軸を見極めることによって生産的なPEST分析を行うことができます。

具体的な戦略に落とし込む

最終的に時間軸別に「短期的」もしくは「長期的」に振り分けた「機会」と「脅威」の項目を短期事業計画・長期事業計画に落とし込みます。

またPEST分析は一度実施したら終わりではありません。「P・E・S・T」の環境が目まぐるしく変化する現代において、定期的に分析を行い、自社のポジションや戦略を見直すことが重要です。

PEST分析のトレンドに乗れなかった失敗事例
 

 

PEST分析のトレンドに乗れなかった失敗事例について2つの例をご紹介します。

デジタルカメラ業界事例

スマートフォンの普及というトレンドにより、デジタルカメラ業界の市場は大きく縮小されました。全国の家電量販店やECショップのPOSデータの集計を行う「BCNランキング」によると、2018年のデジタルカメラ市場は、10年の約30%規模まで縮小したという調査結果が出ています。

この事例をPEST分析から捉えると、この要因は「スマートフォンの普及」という「社会/ Society」のトレンド変化だけでなく、「カメラ部品の低価格化」などの「技術/Technology」トレンドの変化もあります。

フィルム業界事例

米コダック社は、2000年には約140億ドル(約1兆700億円)だった売上高を、2010年に3,600億円まで落とし、経営破綻となりました。

この事例をPEST分析から捉えると、かつて「フィルムの巨人」といわれ、業界1位の座を占めていました米コダック社は「写真のデジタル化への移行」という「技術/Technology」トレンドの変化について行けず経営破綻となりました。    

まとめ

PEST分析は 自社を取り巻くマクロ環境の分析で有効なフレームワークです。3年から5年と言う中長期的なトレンドを把握することで、トレンドに合わせて自社の強みを 柔軟に生かす戦略をとることができます。

今回の記事を参考にPEST分析を行い、自社業界のマクロ環境の分析から「脅威」を避け、「機会」を捉える効果的な事業戦略に役立てていきましょう。
 

WRITER

大後 裕子

C-OLING代表

生活用品メーカーで10年間企画職に従事し、企画立ち上げから海外工場との商談、販促まで商品開発のゼロから一貫して行い、多くの商品をブランディングし、リリース。 8年販売され続けるヒット商品を始め、開発商品点数累計約1,200点、約1,700店舗へ導入。ブランディングを主軸とした、経営コンサルティング、 社内教育の3つの事業を通して、多くの人の生活に豊かさを提供ができる企業を社会に増やしたいと考えています。