高度プロフェッショナル制度とは? 対象となる条件や仕組みを解説

2022-11-22

大後 ひろ子

C-OLING代表 ブランディングコンサルタント

労務雇用管理

長時間労働を是正し、多様な働き方ができる社会の実現を目指す「働き方改革」。2019年4月より順次施行がスタートしており、その内容は有給休暇の時季指定や同一労働・同一賃金など多岐にわたります。数々の施策の中でも「高プロ」と呼ばれ注目を集める制度があることをご存知ですか? こちらの記事では、高プロ(高度プロフェッショナル制度)の仕組みについてわかりやすく解説します。あなたは高プロの対象となるのか……ぜひチェックしてみてください。

高度プロフェッショナル制度とは?

高度プロフェッショナル制度とは、高度な専門知識を備えた従業員について労働時間の制限をなくす制度です。一定の収入(年収1,075万円)を超えている従業員が対象となるため、ホワイトカラーエグゼンプションとも呼ばれます。

高度プロフェッショナル制度のもとでは、時間外労働や休日労働にまつわる協定の締結、時間外労働(休日・深夜を含む)に対する割増賃金の支払いが必要なくなります。一方で、会社側には従業員の長時間労働を防止する措置を講じることが求められています。

高度プロフェッショナル制度は2019年より順次施行が始まった「働き方改革」に関連する施策の一つであり、対象となる従業員を選定するにあたってはさまざまな条件や義務が課せられています。

裁量労働制との相違点

高度プロフェッショナル制度と類似する制度として、裁量労働制が挙げられます。裁量労働制ではあらかじめ1日の労働時間を決めておき、実際の労働時間が設定時間より短くても・長くても設定時間の分だけ働いたとみなします。

裁量労働制は文字通り従業員の裁量によってメリハリの効いた働き方を可能にし、プライベートの充実が期待できる制度です。この点については、高度プロフェッショナル制度と変わりないといっていいでしょう。

しかし、高度プロフェッショナル制度と裁量労働制には決定的な違いが2つあり、一つは制度の対象者です。高度プロフェッショナル制度では職種の制限や年収要件があるのに対して裁量労働制は年収要件がなく、より幅広い職種を対象としています。

また、裁量労働制では1日の労働時間(みなし労働時間)が8時間を超えた場合に残業代が発生するほか、休日・深夜の割増賃金も加算されます。これに対して高度プロフェッショナル制度では残業代や割増賃金の規定が適用されないという違いがあります。

高度プロフェッショナル制度の対象者・対象業務

高度プロフェッショナル制度の導入にあたって、最初に必要となるのが「労使委員会」の設置です。労使委員会において導入に必要な決定事項について協議し、委員の5分の4以上の賛成を得る必要があります。

上記の段階を経た後、一定の要件を満たす従業員について高度プロフェッショナル制度を適用することができます。

高度プロフェッショナル制度の対象者

高度プロフェッショナル制度の対象となる従業員は、以下の要件を満たしている必要があります。

これらの3つをクリアしている場合は、職務記述書(業務内容/責任の範囲/期待する成果などを記載)を提示して従業員の合意を得ることにより、高度プロフェッショナル制度を適用できます。

高度プロフェッショナル制度のもとで働く従業員は、出退勤の時間や休暇の取得を自ら判断できるようになるのが一般的です。ただし、法定休日(4週間の中で4日以上の休日/年間休日104日以上)の順守は徹底しなければなりません。

高度プロフェッショナル制度の対象となる業務

高度プロフェッショナル制度の対象となる業務には以下のような規定があります。

上記2点を満たす業務として具体的に以下のようなものが考えられます。

「高度な専門知識や技術」には医師なども該当しますが、現在のところ高度プロフェッショナル制度の対象にはなっていません。

高度プロフェッショナル制度のメリット

高度プロフェッショナル制度を導入することにより、会社は残業代などを支払う必要がなくなり、生産性の向上も期待できます。

一定賃金の維持

高度プロフェッショナル制度の対象となる従業員については時間外労働などの概念がなくなるため、残業代は発生しません。しかし、労働基準監督署は高度プロフェッショナル制度の指針の中で「対象となる従業員の賃金を減額してはならない」としており、従来通りの報酬額は維持されることになります。

ワークライフバランスの実現

高度プロフェッショナル制度のもとでは、従業員がそれぞれの裁量により出退勤の時間や休暇取得を決定します。そのため、育児や介護などのライフステージに合わせた働き方ができ、仕事とプライベートの両立が可能になります。

生産性の向上

高度プロフェッショナル制度における賃金は、労働時間に対してではなく、成果に対して支払われます。このため従業員は短時間の労働で成果を上げようと努力や工夫を重ねるようになり、生産性の向上や業務効率化につながります。

高度プロフェッショナル制度のデメリット

さまざまなメリットがある高度プロフェッショナル制度にもデメリットはあります。導入後に不満が出ることのないよう、丁寧に制度設計する必要があります。

各種手当の対象外となる

高度プロフェッショナル制度では時間外労働の概念がなくなり、残業手当や深夜手当が発生しません。たとえ長時間におよぶ就労実績があっても成果が出なければ報酬額が増えることはありません。

長時間労働が横行する

高度プロフェッショナル制度には労働基準法が適用されません。終業時刻と始業時刻の間に一定時間以上の時間を設ける健康確保措置(インターバル措置)によって1日中働くことは避けられますが、連日長時間労働に従事しなければならない可能性は残ります。

高度プロフェッショナル制度の導入は慎重に。従業員の健康を優先しよう!
 

 

高度プロフェッショナル制度は労使双方にメリットのある制度といえますが、長時間労働が従業員の健康に及ぼす影響については懸念が残ります。このため会社に対しては(1)11時間以上のインターバルの確保/深夜勤務の回数制限(2)1ヶ月100時間以内または3ヶ月240時間以内の法定時間外労働(3)連続2週間の休暇付与(年に1度)(4)健康診断 といった健康・福祉確保措置が求められています。生産性向上・業績アップも大切ですが、何より大事にしなければならないのは従業員の健康であり、命です。過労やストレスによる病気やけがを防止する意味でも、自社に適した制度設計を行うようにしましょう。
 

WRITER

大場由佳

取材対象者の想いを伝えるWebライター

証券会社勤務を経て、印刷会社にてグラフィックデザインを学ぶ。キャリアップを目指した広告代理店では、企画・デザイン・ライティング・ディレクション業務などを幅広く手がける。出産を機にフリーライターとして活動をスタート。医療・グルメ・女性・スクール系など幅広いジャンルのWebサイトで記事を執筆し店舗取材を多数経験。取材時に寄せられる労務問題に対応する中で知識を深め、読みやすく・分かりやすい文章で発信中。