エンパワーメントとは?組織や人の能力を引き出す メリットやポイントを解説

2022-11-08

大後 ひろ子

C-OLING代表 ブランディングコンサルタント

組織組織開発

エンパワーメントとは、人間一人ひとりが抑圧されることなく潜在能力を引き出し、自分で行動する力や自分を取り巻く環境をコントロールできるように成長を促す考え方です。

社会が多様化する中で、企業には高い生産性やスピーディーな意思決定が求められています。そこで能動的に行動し、即戦力化する人材を育成するためにもエンパワーメントの考え方を経営に取り入れることは、とても有効です。

今回の記事ではエンパワーメントの基本的な意味から、企業に導入する際のポイントとそのメリットについて解説します。

エンパワーメントとは

エンパワーメント(Empowerment)は、VUCAの時代と呼ばれる現代において、生産性の高い企業や組織を実現するために、社員の潜在能力を最大限に引き出す取り組みとして大きな注目を集めています。

ビジネスにおけるエンパワーメントとは

エンパワーメントは、英単語で「Empowerment」と表記し、「権限を持たせること」「自信を与える」という意味があります。

ビジネスシーンでは「権限委譲」「権限付与」などの意味合いで使われます。この意味通り、かつてはトップダウンで経営が行われるシーンが多くありましたが、業務遂行や意思決定の幅を広げる経営手法として、従業員に権限譲渡するエンパワーメント経営に注目が集まっています。

福祉分野におけるエンパワーメントとは

1986年にWHOが提唱したヘルスプロモーションにより、医療や福祉の分野でエンパワーメントに対して新しい考え方が生まれてきました。そこでは介護・看護・福祉において、サービスを受ける側がどのように主体性を発揮できるかがポイントになります。

つまり、 本人が自ら健康のために生活習慣を変えることによって、周りの支援を最大限に生かし健康な状態を実現できるという考え方です。 ここではエンパワーメントの本質である、相互に深い理解を示すことが重要になります。

エンパワーメントが注目されてきた歴史
 

 

エンパワーメントが注目されてきた歴史について解説します。

「エンパワーメント」の発端 

エンパワーメントという概念が広まったのは、20世紀を代表するブラジルの教育思想家であるパウロ・フレイレの提唱によるものです。当時ラテンアメリカにおいて非識字者達に対する識字教育を行い、大きな成果を挙げました。しかしただ識字教育を行なっただけでなく、「文字を読み書きできるようになることは、自分たちの生活を自らの手で変えていくことにつながる」と教えました。エンパワーメントが現代使われる「抑圧を解き、本来持つ能力を開花させる」という意味に受け継がれていきます。

市民運動におけるエンパワーメントの広がり

パウロ・フレイレによって提唱されたエンパワーメントは、ラテンアメリカを始めとした世界の市民運動や女性運動、先住民運動や国際開発など、様々な分野に広がって、実践されるようになります。

1954年には、アメリカで公立学校での白人と黒人の分別教育に対して、違憲判決が出たことをきっかけに、人種差別に対する公民権運動が盛んになり、政治的な意味合いも含まれるようになりました。また、1980年代のウーマン・リブなどの運動の中で広く使われるようになりました。

教育におけるエンパワーメントの広がり

変化の目まぐるしい現代において、教育や子育ての分野においても「人は誰もが素晴らしい力を持って生まれ、生涯にわたり、その力を発揮し続けることができる」という概念を前提にその能力を引き出す教育が広がりを見せています。

また、日本各地の大学でも研究室が設けられ、人の潜在能力を引き出す研究が行われています。

福祉におけるエンパワーメントの広がり 

少子高齢化する現代において、福祉におけるエンパワーメントの概念は重要視されています。
福祉業界では、サービス利用者の自立が最終的なゴールとされます。そこで、サービス利用者が日常生活において自ら選択肢・行動ができることで、自分自身を取り巻く環境を「自分の人生の主人公」としてコントロールできるようにする支援が重要と考えられています。

エンパワーメントを導入する5つのポイント

個人の潜在能力を引き出すエンパワーメントを、企業や組織で導入する際の5つのポイントについて解説します。

ストレッチゴールを設定する 

エンパワーメントは、人の本来持つ能力を引き出し、成長させることを指します。目標設定をする際のポイントとなるのは、その人の能力でギリギリクリアできそうな目標、すなわちストレッチゴールを設けた時に発揮されます。

エンパワーメントを組織や個人に対して取り組むときは、ストレッチゴールを設けることが有効です。

内発的動機づけ

内発的動機付けとは、本人の内面に沸き起こった興味や関心が意欲に動機づけられている状態のことを指します。設定されたストレッチゴールに対しても、報酬や評価、罰則や懲罰などからの外発的動機づけだけではエンパワーメントを発揮するのは難しいでしょう。

上司は、部下の内発的動機づけを高めるため、適切なフィードバックやロールモデルの提示などを行うことでモチベーションの向上や当事者意識の醸成をを促し、仕事において高いパフォーマンスを発揮するよう心がけましょう。

自律性を促す 

エンパワーメントを組織に浸透させるには、メンバーの自律性を促すことが重要です。そのために、経営者やマネージャーと現場の従業員との役割を明確にすることです。具体的には、経営者やマネージャーでは業務の目標や達成基準について明確に定義付けし、その遂行手段や方法については現場の従業員に権限を与え、実行手段を委ねるといった流れです。

支援 

エンパワーメントを組織に浸透させるには、一般的には上司は部下に対して指示や解決策を与えません。その代わり、 部下が自分自身で課題を発見し、試行錯誤の上で潜在能力を引き出せるような環境を作ることが重要です。 上司は何もしないわけではなく、部下の挑戦を見守りながら、何かあった時いつでも後ろに控えているような支援の姿勢が求められます。

権限委譲 

エンパワーメントは、自ら関心を持ち、判断を行いながら取り組むことで高めることができます。そのため上司は部下に対して権限譲渡を行うことで、自らの裁量で行動ができる環境作りをする必要があります。

エンパワーメントのメリット 

 

 

エンパワーメントを企業や組織で取り入れるメリットについて解説します。

個人の能力が発揮されやすい環境が構築できる

従業員は権限譲渡によって裁量権を得ることで個人の能力が発揮されやすくなります。また意思決定の権限を持つことで仕事に対して責任感が生まれ、やりがいを感じやすくなります。 権限譲渡の内容によっては企業の重要な情報を入手することにもなります。その結果、企業にとって自分が必要な人材だと実感できることによって、従業員エンゲージメントも高まります。


意思決定が迅速になる

エンパワーメントに取り組むことによって権限譲渡を行う仕組みを作ることができます。そうすることによって、組織の意思決定にかける時間は短縮され、事業展開の生産性を高めることにつながります。また、現場での意思決定や、現場からのスピーディーなフィードバックにより顧客満足度や企業価値を高めることができ、事業拡大に向けて商品やサービスの向上にもつながる効果も期待できます。

次世代リーダー育成につながる

エンパワーメントによって従業員が裁量権を得ることによって、 主体的に行動する場面が増えます。その結果次世代のリーダー育成にもつながります。権限譲渡を行うことで自身の属するチームの仕事を成功させるために、自ら判断し行動する習慣を作ることができます。上司や先輩が教えるのではなく自主的に行うことによってその効果は高まります。

従業員にとっては、権限譲渡によって仕事への向き合い方の可能性を広げ、企業にとってはリーダー育成の時間を短縮できる可能性があります。

中途人材の早期適合につながる

エンパワーメントによって中途人材の持つスキルや知識を、早期に業務に取り入れ即戦力化することも可能です。中途採用者を信頼して、仕事に対する裁量権を与えることで、本人のパフォーマンスを発揮できる環境を提供できます。 そうすることで帰属意識が高まり早期退職を防ぐ効果も期待できます。

自分で考えて動ける組織になる

アジャイル型組織、ホラクラシー組織、ティール組織など、いずれも権限が組織の一部に集中せず、分散されている点では共通した名称です。従来のトップダウン式の経営ではなく、これらの新しい形の組織のことを、「自律分散型組織」または「自律型組織」と呼ぶこともあります。どれも上下関係にとらわれず現場や従業員に裁量権を広く持たせることが特徴です。また同時に個人が持つ潜在能力を高め、生産性が高まる人材配置を行います。生産性の高い組織を作るためにもエンパワーメントは重要だと考えられています。

まとめ

企業でエンパワーメントに取り組むことで、目まぐるしく変化するビジネス環境に柔軟に対応しながら、 現場からの現実的な視点でスピーディーな意思決定をすることができます。
また従業員にとって権限を譲渡される事は一人ひとりの活躍の場を増やすことにつながり、仕事に対してやりがいが生まれ社員エンゲージメントの向上にもつながります。

今回の記事を参考に、従業員の自己成長を促し、本来の能力が発揮できるエンゲージメントを組織に取り入れていきましょう。
 

WRITER

大後 裕子

C-OLING代表

生活用品メーカーで10年間企画職に従事し、企画立ち上げから海外工場との商談、販促まで商品開発のゼロから一貫して行い、多くの商品をブランディングし、リリース。 8年販売され続けるヒット商品を始め、開発商品点数累計約1,200点、約1,700店舗へ導入。ブランディングを主軸とした、経営コンサルティング、 社内教育の3つの事業を通して、多くの人の生活に豊かさを提供ができる企業を社会に増やしたいと考えています。