労働審判とは何か? 通常訴訟との違いや手続きの流れなどを解説

2022-11-24

大後 ひろ子

C-OLING代表 ブランディングコンサルタント

労務その他

毎日頑張って仕事をしているのに残業代がきちんと支払われない、納得できる理由がないまま契約の終了を通達された……。会社という組織に対して一個人である労働者の立場は弱く、不当な扱いを受けても泣き寝入りする人が少なくありません。この背景には裁判のために多大な労力や費用を要するなどの理由が挙げられますが、労働問題に限ってはより簡易的な制度が設けられていることをご存知でしょうか? こちらの記事では労働問題の中心となる雇用・賃金トラブルを扱う「労働審判」についてわかりやすく解説します。いわゆる「訴訟」とは何が違うのか、ぜひ内容を確認してみてください。

そもそも、労働審判とは?

労働審判とは、労使間のトラブルをよりスムーズに解決するための手続です。従業員が会社を不当に解雇されたり、未払いの残業代があったりする場合に限り、通常の裁判よりも簡易的・短期間にトラブル解決につなげる制度が設けられています。

不当解雇や未払い残業代などのトラブルを解決しようとするとき、「労働審判」か「通常訴訟」のどちらかを選択することになります。通常は申し立てをする従業員がどちらかを選び、裁判所で手続きを行います。労働審判では労使双方の意見を聞きながら、労働審判官1名と労働審判員2名が審理します。

労働審判制度の運用が開始されたのは2006年の4月でした。初年度の申し立ては1,200件ほどでしたが、その数は右肩上がりに上昇して最近では1年間に3,500件もの申し立てがあります。労働審判が通常訴訟の件数を上回っているという事実から見ても、不当解雇・未払い残業代トラブルについては労働審判で争うのが基本となっているようです。

実際に、労働審判制度を利用して「解雇・雇い止めトラブル」を申し立てた人は全体の約45%、残業代などの「賃金トラブル」を申し立てた人は全体の約40%。このうち90%近いケースが金銭的解決により和解に至っています。

労働審判と通常訴訟の相違点

通常の裁判よりも簡易的・短期間にトラブル解決をめざす労働審判は、通常訴訟と以下のような違いがあります。

労働審判

手続き:簡易的な訴訟手続きが可能
期 間:平均70日
強制力:最終的な強制権限なし(労働審判における結論に労使のいずれかが異議を申し出た場合、通常訴訟に移行)

通常訴訟

手続き:通常(正式な)の訴訟手続きが必要
期 間:約1年
強制力:最終的な強制権限あり

労働審判の対象

労働審判はその名前のとおり「労働」にまつわるトラブルに限って裁判所に申し立てができます。労働審判のほとんどが賃金・雇用関係のトラブルで占められているように、従業員側の権利や利益の大小にかかわらず申し立てできることが特徴です。

労働審判には従業員の泣き寝入りを防ぐ目的もあり、通常よりも簡易的かつ短期間に結論を出す仕組みになっています。従業員にとっては通常訴訟よりもハードルが低い制度ではあるものの、以下のケースは対象外となります。

賃金に関するトラブル

就業規則や労働契約書に記載されている内容と異なる賃金が支払われている場合は、まず会社側に確認します。このとき会社から満足のいく回答が得られない場合は、適切な賃金を求める意思表示として労働審判を検討します。賃金に関するトラブルとしては、以下のようなものが考えられます。

雇用に関するトラブル

いわゆる「雇い止め」など雇用契約の終了手続きに違法性が疑われる場合には、まず会社に抗議の姿勢を示します。それでも不当に退職させられるようなら、労働審判を検討します。雇用に関するトラブルとしては、以下のようなものが考えられます。

労働審判の手続き

労働者が裁判所に申し立てをし、これが受理されると本格的に労働審判がスタートします。

1)第1回審判期日の決定

労働者の申し立てが正式に受理されると、裁判所から第1回審判期日が指定されます。1回目の審判が行われるのは、申し立てからおおむね1ヶ月後となるのが一般的です。手元に通知が届いたら、指定された期日に出頭します。

2)第1回期日

事前に通知された期日に裁判所で1回目の審判が行われます。労働者による申立書や証拠書類、会社側の答弁書や証拠書類を参考に、裁判官・労働審判員による事実確認と当事者間の話し合いが行われます。

このとき労使双方の間で結論が出たり、裁判所の判断が決定したりした場合には1回の審判で終了となるケースもあります。実際に全体の約3割は第1回審判で決着しており、話し合いによる合意では「調停調書」が作成され、裁判所の判断では「審判」が確定します。

3)第2回期日

第2回期日には第1回期日において提出された書類や証言された事実を踏まえて話し合いが行われます。基本的に労働審判は第2回期日にて審理終了となります。データによると第2回期日で終わるケースは4割近くになり、第1回期日とあわせて全体の7割ほどになります。

4)第3回期日

第2回期日においても労使双方の合意が得られない場合に第3回期日が開催されます。労働審判は第3回期日で終了となるのが原則となっており、もしも合意に至らない場合は裁判所による審判が下されます。

労働審判による3つの結論

労働審判は実に9割近くが金銭的なやりとりによって和解に至っています。3回の審判を経ても労使の合意が得られなかった場合は、どちらかが異議申し立てをすることで通常訴訟に移行します。

1)調停成立

話し合いによって和解となった場合は調停成立となり、裁判所が調停証書を作成します。話し合いの中で約束された内容が明文化されることで、金銭の授受をはじめとした合意内容の施行を確実なものとします。

2)労働審判の確定

労働審判の確定は、裁判でいう「判決」と同じ意味があります。告知からおおむね2週間後に確定され、その後は確定した内容を覆すことができません。

3)異議申し立て(訴訟手続き)

労働審判の第3回期日までに結論が出なかったり、労働審判の結果に不服があったりする場合には、労使のどちらかが異議申し立てをすることになります。この場合、労働審判の告知から確定するまでの2週間に異議申し立てをする必要があります。

異議申し立てが受理されると、労使争いは労働訴訟に発展することになります。このとき、労働審判で扱った申立書は訴状として引き継がれます。一方で、証拠として提出した資料などについては再提出する必要があります。

労働審判や訴訟を避けるため、適切な労務管理を心がけよう!
 

 

労働審判は会社と個人(従業員)の間に起こった労働問題を解決するための制度です。中心となるのは賃金や雇用にまつわるトラブルですが、これらは会社が適切な管理や対応を行うことで避けられる内容です。裁判所の通知を受けたときに適切な対応を取ることはもちろん、労働審判に発展する事案が発生しないよう社内の体制を確認しておきましょう。

WRITER

大場由佳

取材対象者の想いを伝えるWebライター

証券会社勤務を経て、印刷会社にてグラフィックデザインを学ぶ。キャリアップを目指した広告代理店では、企画・デザイン・ライティング・ディレクション業務などを幅広く手がける。出産を機にフリーライターとして活動をスタート。医療・グルメ・女性・スクール系など幅広いジャンルのWebサイトで記事を執筆し店舗取材を多数経験。取材時に寄せられる労務問題に対応する中で知識を深め、読みやすく・分かりやすい文章で発信中。