株式会社 石井大一商店

INTERVIEW

代表者名

須賀 実

所在地

千葉県市川市塩浜3-27-4

設立年

1969年

事業内容

  • 食品業
  • 食肉

かつて庶民には手の届かない高級品だった牛肉。ブランド牛をはじめとした国産牛の仕入・加工・販売を一手に担う石井大一商店は、1969年創業の老舗食肉卸だ。取引先に大手スーパーや有名レストランが名を連ねる同社の社長を務めるのは、コロナ禍真っただ中に会社を引き継ぐことになった須賀氏。「社長就任当時が一番つらかった」と話す須賀氏に、数々の困難を乗り越えてきた苦労や会社の未来について聞いた。

INTERVIEW

株式会社 石井大一商店代表取締役社長須賀 実

私たちの「会社」BUSINESS

指定農場から食卓へ――。日本が誇る和牛を扱う食肉卸として食の安全と信頼を守る

会社の事業内容や設立までの経緯、この分野を選んだ理由をお聞かせください。

石井大一商店は国産牛をメインにした食肉卸です。東京市場をはじめ仙台・水戸・川口など各地の市場の競りに参加して枝肉を買い入れ、スーパーや飲食店など取引先のニーズに合わせて加工し、納品する……ということを主な業務としています。今や“交雑種”が主流になりつつある国産牛の中で、仙台牛をはじめとした黒毛和牛の取り扱いは全体の3割ほどになり、産直ギフトや加工品なども手がけています。 現在は本社を千葉県市川市に置いて食肉処理・販売業を行っておりますが、創業時は同じ生鮮食品とはいえ“鮮魚”を扱っていたと聞いています。当社の創業者・石井大一は都内で魚屋を営んでおり、そのお隣の精肉店で働いていたのが後に結婚することになる奥様でした。石井大一は“関東一”と称された精肉店での修業を経て独立し、1969年に会社を設立。その後、本社を都内からこちらに移転して現在に至るという流れです。 私はもともと運送業をしていたのですが、創業者の息子である中学時代の友人から誘いを受け、20歳のときにこの会社に入りました。営業として大手スーパーを担当したり、加工の現場で経験を積んだりしながら10数年を過ごし、42歳で取締役に就任。その後、先代の病気などもあって2019年に社長を引き継ぎました。ひと昔は牛肉など “高嶺の花”で、ここに来るまでほとんど口にしたことはありませんでしたけれど(笑)。取引先様に勉強させていただき、現場で経験を積みながら、今では食肉の買い付けなどを一手に引き受けるまでになりました。

この仕事や業界の魅力、やりがいをお聞かせください。

市場の競りで買い付ける枝肉は、一頭がおおむね150万円ほどになるでしょうか。10頭買えば1,500万円、100頭買えば1億5,000万円になり、一度の取引で動く金額はとても大きくなります。私も若い頃はそういったダイナミックな部分に魅力を感じたものですが、扱う金額の大きさに対して利益率が非常に小さいこともこの業界の特徴といえます。 外食産業などでは“原価率”が店舗運営を左右するといわれますが、私たちのような食肉卸業では原価率が9割ほどになります。そのため残り1割の利益をしっかり確保するためには、とにかく“全て売り切る”ことに限ります。とはいえ枝肉一頭分を全て売り切るのは至難の業ですから、あらゆる知恵と工夫を駆使しなければなりません。 一頭買いした枝肉はざっくりと(1)カタ(2)モモ(3)ロース(4)バラといった部位に分けられ、スーパーさんにはカタやモモが好まれ、ロースは洋食レストラン、バラは焼肉店……といった感じに業種ごとに売れ筋が異なってきます。このため、取引先の業種が偏ってしまうと全ての枝肉を売り切ることができませんから、日頃からいろいろなジャンルの取引先と信頼関係を築き、販路を確保しておくことが大切になります。 こうした知恵に加えて “精肉”を “加工品”にして販売することも1つの方法です。私も「こんな商品を・こんなネーミングで・こんなターゲットに向けて販売したらどうだろうか……」と頭の中でシミュレーションしてみることがあります。これまでに当社が提案した加工品にはスーパーの店頭に並ぶローストビーフなどがありますが、「自分の仕事が目に見える」こともこの仕事の魅力と言えるかもしれません。

会社の強みや主力商品の魅力をお聞かせください。

輸入牛と違って国産牛には一頭一頭 “個体差”があるため、買い付けには個々の品質を見極めるだけの知識や経験が欠かせません。今のところ市場の競りは全て私が参加しておりますが、常に「取引先様が必要とするものを絶対にそろえる」ことを念頭に置いて、決して信頼を裏切らないようにしています。 また会社の理念として「指定農場から食卓へ」を掲げているように、生産者と直接お会いして信頼関係を築き、時には価格の下支えをするなどして安定的な供給に努めています。食肉の売買においては、生産者は高く売りたい/消費者は安く買いたい/スーパーは安く売りたい……といったそれぞれの思惑があり、私たち食肉卸はその狭間にいます。そのため、生産者からはできるだけ高く買い取り、その価値を消費者にもきちんと認めていただけるようにと考え、会社として積極的に取り組んでいるのが“ギフト商品”です。 一般に、すき焼き用などのスライス肉を冷凍すると、大きな一つの塊になってしまうことがほとんどです。これに対して当社のギフト商品はスライス肉を1枚1枚シートで巻いてありますので、冷凍のままお皿に乗せるだけで盛り付けが完了し、食卓に運ぶ間にちょうど食べ頃になる……といった点がご好評をいただいています。こうした手間のかかる作業はコスト増につながり敬遠されることも多いのですが、私たちとしては食の安全やおいしさと同時に、見た目の美しさや便利さにもこだわりたいと思っています。

経営者の心に残ったエピソードEPISODE

牛肉価格がジェットコースター並みの急降下。経営を立て直すまではとにかく必死でした

今まで会社を経営してきた中で、一番心に残っているエピソードをお聞かせください。

当社がメインで扱う牛肉に関してはこれまでに多くの事件があり、何か起こるたびにどうにか苦難を乗り越えてきた感じです。主なところでは1990年に埼玉で発生したO157、2000年代のBSE(狂牛病)、2011年の東日本大震災、最近では新型コロナのまん延などが挙げられるでしょうか。私が社長に就任した2019年はコロナで非常に厳しい状況になり、外食やホテルの売上がほとんどなくなってしまいました。とはいえやはり、もっとも影響が大きく、長く続いたのがヨーロッパから日本に波及したBSEだったように思います。 BSE問題がさかんに取り上げられていた2001年、メディアによる連日の報道は消費者の心理に大きな影響を与えました。スーパーや飲食店における “牛肉離れ”が顕著になっていく一方、当時の私はタイミング悪く、某スーパーで開催予定の“北海道フェア”の準備を進めているところでした。北海道の帯広で買い付けた50~60頭ほどの在庫は2000万円を超えており、いざ検品作業のために現地へ向かう……という前日に飛び込んできたのがニューヨークで発生した “9.11”のニュースでした。不謹慎なのは重々承知ですが、このときばかりは 「9.11に紛れてBSE問題がうやむやにならないか」と心から願ったものです。 ところが私の願いに反してこの頃から牛肉はまったく売れなくなり、市場の枝肉価格はジェットコースターのように下がり続けました。それまで2,500円前後で売れていたものが半額になり、そのまた半額になり……ほんの1~2か月ほどの間に300円くらいにまで下がってしまったんです。市場価格の低下はそのまま当社の在庫の評価額につながりますから、1億円もの在庫を抱えていた私は真っ青です(笑)。「生きた心地がしない」というのは、まさにあのときの状況を言うのではないでしょうか。 とはいえこのとき、北海道フェアを通じてスーパーさんとのご縁ができたこと、何とかして牛肉を売る手段として加工品を手がけるようになったことは、今につながる貴重な財産になりました。今も忘れられないのは、在庫の牛肉をさばくためにクリスマスイブにトラックを走らせ、首都圏各地のスーパーを回ったことです。まだ若かった私は「何とかこの状況を打開しよう」とやみくもに頑張って在庫をゼロにし、その後は大幅に下がった市場価格や国からの補助などに助けられ、騒動の発生から約半年で経営を立て直すことができました。また、このときに“危機を乗り越えるためのノウハウ”のようなものを学んだことで、後に続く東日本大震災やコロナ禍においても逆境に打ち勝つことができたのだと思っています。

私たちの「ビジョン」VISION

個人の能力に依存した“商店”から、連携して利益を生み出す“会社”への飛躍を目指す

あなたの会社の仕事で、どのような社会を実現していきたいですか?

お恥ずかしい話ではありますが、創業者の石井大一が「石井大一商店」を興したように、今の組織は社長である私の名前を冠した「須賀実商店」だというのが実情です。市場で枝肉を競り落とすことから始まり、業務のほとんどを私が一手に担っているような状態が続いているからです。しかしあと10年もすれば、私が第一線から退く日が必ず来ます。今のような“商店”のままでは、世代交代も事業拡大も期待することはできないでしょう。 こうした背景を踏まえて私たちは今、“商店”を立派な“会社”へ成長させようとさまざまな取り組みを行っています。これまで個人のスキルに依存していた部分を組織化・可視化し、組織として機能させていくことが大きな目的です。とはいえ、トップである私は組織づくりのノウハウなど持ち合わせていませんから、その道のプロにご指導いただきながら組織の再編やグループ化などを進めているところです。 私が引退するまでに「石井大一商店」が「○○株式会社」になるかどうかは分かりませんが、組織の適正化・人事評価の明確化による効果は確実に現れているように感じます。実際に、社員間のコミュニケーションが活性化したおかげで頻繁に議論がなされ、前向きな意見が聞かれるようになりました。私自身コンサルティングの力に驚くとともに、だんだんと成長していく社員たちを頼もしく思っています。トップが自ら切り盛りする“商店”から、組織の最適化により高い利益を生みだす“会社”へと生まれ変わる時が、もうすぐやって来るのではないかと期待しています。

私たちの「SDGs」SDGs

フードロス削減はもちろん、収益に見合った社員への還元・地域貢献を継続していく

SDGsの取り組みについてお聞かせください。

まずは食肉を扱う者として、フードロス削減の取り組みはしっかり行っていきたいと考えています。実際に、私が社長になって最初に手を付けたのが“不良在庫”の整理でした。社長就任から1年の間に在庫をすっかりゼロにして、それ以降は徹底した管理のもとで過剰な在庫を抱え込まないようにしています。加工品の販売はフードロスを生まない秘策の1つであり、部分肉を納品するだけでなく、ローストビーフをはじめとした加工品にすることで「全て使い切る」ことを徹底しています。また最近では、食肉の適切な保管に欠かせない冷蔵・冷凍庫を節電タイプに切り替えるなど、エコな取り組みも意識しています。 一方で社員に向けた取り組みとしては、雇用の安定であったり、産休・育休を取りやすい環境づくりであったり、セクハラやパワハラの防止にも努めています。もちろん利益が出ればきちんと還元するようにしていて、社員だけでなく地域社会に向けた活動も積極的に行っています。最近の事例では、千葉ロッテマリーンズとスポンサー契約をしたり、コロナ禍では市内の学校にアルコール消毒液を寄付したり、小学校に発達障害学級向けの教材をプレゼントしたこともありました。こうして縁あってこの地で仕事をさせていただいているわけですから、収益に見合った地域貢献をすることでご恩返しができたらいいなと思います。

私たちの「チーム作り」TEAM

社員は家族、会社は家。有言実行で協力し合い、素晴らしい未来を築きたい

スタッフの成長をサポートする取り組み、能力を引き出すために工夫していることをお聞かせください。

私たちの仕事は食肉加工の現場のほかに取引先との交渉にあたる営業などがあり、それぞれに異なる能力が求められます。とはいえ根底に「お肉が好き」という思いがあれば、たいていのことは頑張れるものです(笑)。実際に、当社にもシステムエンジニアというまったく別の業種から転身したスタッフが働いています。また女性社員が営業に行ってくれれば、スーパーさんへのメニュー提案なども受け入れてもらいやすいかもしれません。 食肉加工の現場で働く社員については、作業工程で必要になる技術や知識を一から身につけてもらいます。最近も枝肉から骨を抜き取り、部分肉にした後でスライスやミンチにする……といった技術を学ぶ3泊4日の合宿研修に、当社の社員を2名ほど参加させたばかりです。このほか、倉庫勤務の社員にフォークリフトの免許を取ってもらったり、管理職をセミナーや研修会に参加させたり、それぞれがスキルアップするために必要な費用については全て会社で負担するようにしています。 営業スタッフに関しては、これはもう自分の目と舌を使って経験を積んでもらうしかありません。私も20歳代の頃に取引先のステーキ店でいろいろな部位を食べさせてもらい、味わいや舌触りの違いを体に叩き込んだものです。輸入牛などと違って和牛は特に個体差が大きいですからね。枝肉を見て、切り分けられた精肉を見て、実際に食べてみる……といった実践的な訓練がどうしても必要になるのです。そのためにもやはり、この仕事をするうえでは「お肉が好き」という気持ちが絶対に欠かせないと思います。

もしも自分自身が会社の社員だったら、会社に期待することは何ですか?

私自身がそうしているように、会社にも有言実行で「言ったことはやる」という姿勢を貫いてほしいと思います。現に私は、いつか自分が引退するときのために“商店”を“会社”にすることを発案し、今まさに“有言”を“実行”に移しているところなのですから。 “商店”から“会社”への組織改革がスタートしてまだ間もないですが、すでに確かな手ごたえを感じることがあります。これまでは社員がそれぞれバラバラに動いているような印象でしたが、月に1度のチームミーティングなどを行ううち、前向きな発言やアイデアが聞かれるようになりました。もしも自分が社員だったら、食肉だけでなく流通や販売などについても貪欲に学んで、会社の利益につながるような提案をしたいですね。そうして利益が上がったら、それに相応しい報酬を得られるような、働きがいのある環境づくりにも期待したいです。

最後に、スタッフに向けた感謝の言葉や社外に向けたメッセージをお願いします。

私は社員たちのことを家族だと思い、誰にでも分け隔てなく接しているつもりです。一方で、これまでは社員間のコミュニケーション不足などがあって「お互いに協力して取り組もう」といった様子がみられなかったことも確かです。トップが直接指示を出す“商店”であれば大きな問題はないかもしれません。しかしこれから“会社”に成長していこうとするなら、社員間のみならず社員と管理職の間の円滑なコミュニケーションが不可欠になるでしょう。 社員たちには「私たちはみんな家族だよ」「これからもいい家族でいようね」と伝えたいですね。そしていつか、私たち家族が暮らす家(=会社)を、周囲に誇れるくらい立派な姿へと成長させたいです。だからどうか、これからもみんなの力を貸してほしいと思います。

株式会社 石井大一商店代表取締役社長須賀 実

生年月日
昭和40年8月2日
出身地
東京都江戸川区篠崎
血液型
O型
趣味
テニス
好きな映画
SFもの、『トップガンマーヴェリック』昔観た映画の続編が好きなので『アバター』も観たいです。
好きな言葉 座右の銘
『有言実行』
好きな場所・観光地
日本なら草津、海外ならフィジー(新婚旅行で行きました。また行きたいと思っています)